2021年11月9日、作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが亡くなりました。享年99。35歳のとき瀬戸内晴美の名で作家デビュー、女性の生き方を描いた作品を次々と発表し人気作家となります。51歳で得度(とくど)、名を寂聴と改めたのちは、作品や法話を通して、人々を《ことば》で導いてきました。南果歩さんが、生前の思い出をたどり、お人柄を明かします(構成:篠藤ゆり 撮影:霜越春樹)
妊娠も、すべてお見通し
寂聴先生の訃報が入ったのは、私がニューヨークに滞在していた時でした。お芝居を観て帰ってきた後、東京の知人から連絡があったのです。でも、にわかには信じられなくて──先生がご高齢なのは承知していましたが、それでもなぜか、亡くなるというイメージは持てずにいたのです。
2021年5月15日、99歳のお誕生日にも、お電話でお話しして。「カテーテルの手術を受けるの」と言っておられましたが、お声は元気そうでしたから。
初めてお目にかかったのは、最初の結婚をした31歳の時。対談の席で、先生から「あなた、妊娠しているんじゃないの?」といきなり言われました。妊娠のことはわずかな人にしか伝えていなくて、お腹もまったく目立たなかったのに、「すべてお見通しなんだ」と驚き、先生に強く惹かれました。
その後、何度も寂庵を訪問しましたが、毎回、「あなた、何歳になったの? これからがいい時期よ」とおっしゃるところから始まります。その瞬間の笑顔は、見る人をパッと明るくさせる。本当の修羅場を潜り抜け、苦しみを味わってきた人にしか表せない笑顔ではないかと感じていました。
先生の前では、素直に本音を出すことができるので、ぐずぐず泣きながらお話しすることも。いつも包み込むように話を聞いて、「あなた、人生はいろいろあるのだから。そんなことは放っておきなさい!」と、ストレートに叱咤激励してくださいました。