2021年10月12日の2次予選で演奏する小林さん【(c) D.Golik / TheFryderyk Chopin Institute】

「今年の日本人はおもしろい!」

前回、15年のコンクールにも挑んでファイナルに進出したが、惜しくも入賞は逃した。その経験を糧に、さらに自分や音楽と向きあい続けた末の再挑戦。彼女もまた、すでに注目されている演奏家だけに、プレッシャーは半端ではなかったはずだ。そんななか、高い集中力で思い描く音楽を大切に再現してゆくステージには、胸を打つものがあった。

神童として華やかな舞台を経験してきた彼女は、「たぶん私はチヤホヤされることがあまり得意でなく、期待されすぎることにも耐えられなかった。でも、その時があるから今の自分がある」と、子ども時代を振り返る。

これから音楽家としてどうありたいかを尋ねると、「今は魅せるような演奏には全然興味がない。ただ音楽を感じてもらえるピアニストになりたい。真摯に続けていけば、いつかそういう音楽家になれるのかな」と話していた。

入賞した2人以外にも、今回は日本人参加者が高い評価を受けていた。2010年、15年のコンクールでは、3次予選前にほとんどの日本人が姿を消したが、今回は2次に8名、3次に5名が進出。それもただうまいだけでなく、個性が際立つ人が多かった。現地で取材をするなか、「今年の日本人はおもしろい!」と何度言われただろう。

強い意志を感じるダイナミックな音楽を聴かせて2次予選に進出。現役医大生という特殊なバックグラウンドで現地メディアからも注目を集めていたのは、愛知県半田市出身の沢田蒼梧(そうご)さん。現在、名古屋大学医学部5年生。夏から大学の実習が再開、コンクールに備えて企画された演奏会も重なり、寝る暇がないほどの忙しさを切り抜け、ワルシャワ入りしたという。

ピアニストと医者の志の共通性については、「ピアニストは、ピアノを弾くことで心を癒やすことができる。医者は、体を治療することで心も明るくすることができる」と話し、これが自分の生きる道だと迷いのない口調で語っていた。滞在中は関係者の誘いで、現地ワルシャワの医科大学付属病院小児科病棟を訪ね、学生や教授たちと交流する機会もあったという。今回の日本人参加者の多様性が示された出来事の一つだった。

3次に進出した参加者の一人、進藤実優(みゆ)さんも、その日本人離れした音楽性で審査員から高く評価されていた。偶然にも、彼女もまた沢田さんと同じく愛知県の知多半島にある大府市の出身。中学卒業後ロシアに留学、モスクワ音楽院付属中央音楽学校で学んだ19歳だ。