上位入賞者の横顔は
2021年10月、第18回ショパン国際ピアノコンクールは、新型コロナの影響による1年の延期を経て開催された。今回は、1970年の内田光子さん以来、51年ぶりの日本人最高位タイである第2位に反田(そりた)恭平さん、第4位に小林愛実(あいみ)さんと、日本人がダブル入賞。
そのほかにも、すでに人気ピアニストとして活躍する牛田智大(ともはる)さんをはじめ、優れた日本人参加者が多く、国内での注目度はこれまで以上に高いものに。今回は延期により準備期間が長かったこともあり、全体的にハイレベルで、個性を極めた演奏を多く聴くことができた。
パンデミックの中での開催、ワクチンパスポートの提示やマスク着用などの制約はありながら、国家事業ならではの祝祭的な雰囲気は例年とほとんど変わらなかった。
今回のコンクールで頂点に輝いたのは、中国系カナダ人のブルース・リウさん。輝かしく華やか、生の喜びにあふれた音楽で、聴衆から圧倒的な人気を集めていた。審査員の一人で、リウさんの師でもあるベトナム人ピアニスト、ダン・タイ・ソンさん(80年優勝)は、弟子の音楽性について、「太陽のよう。ダイナミックでエネルギーに満ち、冒険心がある」と語った。
ショパンの音楽は本来、望郷の念や物哀しさをたたえていることが理想とされ、優れたショパン弾きを求めるこのコンクールでも、そんな音楽が評価される傾向にあった。しかしリウさん本人は、少しそのイメージと違う、と話す。
「一般的にショパンの音楽は、ノスタルジックで苦悩に満ちていると思われているでしょう。でも、ショパンだって人間。彼は生涯ずっと悲しんでいたわけではなく、幸せな時間もあったはずです」
リウさんは両親ともに中国人だが、パリで生まれ、カナダで育った。父親が画家という芸術的な家庭環境にあるうえ、子どもの頃から多くのことに興味を持ち、ピアノは「15くらいある趣味の一つだった」と話す。
圧倒的な魅力に、審査員も高い評価をせずにはいられなかったのだろう。新しいスターとして、ショパン演奏の伝統にフレッシュな風を吹き込むかもしれない。