以下に、小西氏から寄せられた追悼を全文紹介する。
喜多條忠逝く――
「歌謡組曲 恋猫」の相棒を杉岡弦徳が見送った
「作詞は喜多條忠にしよう。諸君と五分でつき合えるのは彼しかいないよ」
僕の提案に、人気作曲家たちは一様にうなずいた。弦哲也、徳久広司、岡千秋、杉本眞人の4人で、彼らは苗字を1字ずつ取った「杉岡弦徳」の作曲ユニットを組んだ。史上最初の遊び心が、歌謡史初の組曲を作曲することになって、気分はやたらに盛り上がっている。
BSフジで5年間に9回、断続的に制作放送した「名歌復活!弾き語り 昭和のメロディー」という番組が発端。4人の作曲家がそれぞれヒットした作品や昭和歌謡の逸品を、弾き語りで歌うのが人気を呼んだ。1曲ずつに歌う彼らの独特の味わいがあり、ことに弾き語りだと”思いのたけ”が吐露されて「情」が濃い目、彼らの人間味までがにじんむ楽しさがある。
放送が回を追うごとのフリートークの中で、これを機にみんなで歌を作ろう。司会進行係の松本明子に歌って貰おう、ついてはあんたのプロデュースで…と、番組内で勝手なおしゃべりをしていた僕に、おはちが回って来た。4人の作曲家と長い親交があり、年が上だから兄貴分を気取っていての大役だ。
「面白いねえ。個性的な4人ととことん組むのも楽しみだ」
ゲストで呼んだ喜多條が番組内で胸を叩いた歌づくり。それが『歌謡組曲 恋猫~猫とあたいとあの人と~』になる。「涙猫」(作曲:岡千秋)「港猫」(作曲:弦哲也)「じゃれ猫」(作曲:徳久広司)「夢猫」(作曲:杉本眞人)「星猫」(全員のセッション)の構成で、9分36秒の大作になった。
当初喜多條は各パートを3コーラスの詞にした。これでは長すぎてどんな寸法になるか見当がつかない。各パートを1コーラス分に詰めて、それぞれ形式は自由でいい…と注文をしなおす。喜多條は「歌詞を削れって言われたの初めてだ!」とぼやきながらも、作曲家4人と話し合って作業を進めた。