演歌、歌謡曲、ポップスの味わいが交錯し、展開するメロディー。お話は「あたい」と名乗る娘を主人公に、1つの恋の出会いから別れ、彼女の再起までをしみじみと綴る。その間を屋台のおやじと彼女のやり取りでつなぐと、もっと人情が温かく味わいが深くなると弦哲也が提案。
「統領!ここでひとふんばりだな。あんた、役者兼業なんだから!」
と、作家たちの声が揃って屋台のおやじが僕、娘が松本と配役が決まった。
全曲歌唱、芝居まで…と奮闘したのが松本明子だ。もともとアイドル歌手志願だった人が、芝居やドラマ、司会、テレビのコメンテーターなどに仕事の幅を広げて、円熟のキャリア。しかし、杉岡弦徳の4人は、ひと癖もふた癖もあるメロディーを書く。親しい仲だが競争心はなかなか…で、組曲で腕を競うとなれば、メロディーにも当然”やる気”がにじむ。松本はそれぞれの思いを、読み切った歌唱が見事だった。明るい笑顔の陰に、こちらもベテランのしぶとさを秘める気配で、存在感十二分である。
――晩秋、僕らは親友で腕利きの詩人、喜多條忠を突然失った。
11月22日、肺がんで死去、働き盛りの74歳。杉岡弦徳をはじめ歌社会の人は、彼の若過ぎる死に声を失った。かぐや姫の「神田川」、キャンディーズの「やさしい悪魔」、梓みちよの「メランコリー」などを彼の作詞生活第1期とする。その後20年、ボートレースに没頭、評論を書いていた彼を、僕は歌謡界に呼び戻した。
2008年、五木ひろしの歌で作曲家三木たかしの絶筆「凍て鶴」を仕上げて以後が、喜多條のいわば第2期で、僕と彼の間柄は親交が戦友に変わっていた。がんの闘病2年も入退院の都度病状の報告を受け、小康状態の隙に他の歌手の歌作りを続けた。
よく飲み、よく語る闊達な人柄に「詩人の繊細」「放浪の旅の孤独」「無頼の純真」「仕事師の剛腕」を宿した相棒に先立たれた無念は、杉岡弦徳ともども長く、胸に刺さったままになっている。
「恋猫」は日本歌謡界を代表する作曲家4名の頭文字を合わせた作家名、杉岡弦徳。小西良太郎監修・プロデュースのもと、喜多條忠氏のドラマ仕立ての詞に4人の作曲家が曲を書き、5曲目の「星猫」では1つの曲を共同作曲で生み出した
https://www.teichiku.co.jp/catalog/teichiku/2019/TECE-3577.html
「恋猫」~猫とあたいとあの人と~を含む喜多條忠作品によるプレイリスト公開中
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