「歌手として今できることは何か。待っているだけではダメ――。それがコロナ禍に直面し、思ったことでした」(撮影:岡本隆史)
芸能生活56年、「五木ひろし」として50年。日本人の心に染みる数々のヒット曲を歌い、歌謡界のトップスターとして走り続けてきた。2020年末の『NHK紅白歌合戦』では、連続出場50回という新記録を樹立。21年には73歳となる。歌手、作曲家として活躍し、また自身の舞台やコンサートのプロデュースも手がける五木さんのパワーの源は──(構成=福永妙子 撮影=岡本隆史)

50年間、休まず走ってきて突然の活動休止

2020年は新型コロナウイルスの世界的流行によって、いつもとはまったく違う年となりましたね。僕の場合も2月の半ば以降、ぎっしり詰まっていたコンサートやイベントの予定がすべて中止や延期に。歌手デビューして56年。最初の6年間は売れなくて、仕事がなく、ヒマでしょうがなかったけれど、「五木ひろし」の名前で再デビューしてから今日までの50年間は、休むことなく走り続けてきました。そうしたなかで、突然余儀なくされた活動休止です。

「このへんで少し体を休めなさい」と、天が与えてくれた時間なのだと受け止め、経験したことのない数ヵ月の休養の日々を送りました。とはいえ、作曲をしたり、ありとあらゆるジャンルの楽曲を聴いたりと、音楽から離れることはありませんでしたけどね。

いつになったら活動を再開できるのだろう――。焦りのなか、気持ちを和ませてくれたのは愛犬たちとの時間でした。わが家にいる2匹のトイプードルの1日3回の散歩は僕の役目。とはいえ、それは僕がうちにいるときだけ。

1年の3分の1はコンサートで全国各地を飛びまわっていますし、東京にいても仕事がありますから、ワンちゃんと過ごせる時間はわずか。それがステイホーム中、朝から晩まで一緒にいられたこと、それだけは嬉しかったし、心の慰めになりましたね。