かぐや姫の「神田川」、梓みちよの「メランコリー」、キャンディーズの「暑中お見舞い申し上げます」など、数々のヒット曲を手掛けた作詞家で、日本作詩家協会名誉会長の喜多條忠さんが2021年11月26日に74歳で亡くなって2ヵ月余。2019年12月にリリースしたCDで、弦哲也、徳久広司、岡千秋、杉本眞人という日本を代表する4人の作曲家と組んだ喜多條さんは「歌詞を削れって言われたの初めてだ!」とぼやきながらも、話し合って作業を進めたという。この企画をプロデュースし、喜多條さんと数々の仕事をともに手掛けた音楽プロデューサー・評論家の小西良太郎氏が、追悼文を寄せてくれた
(写真提供◎テイチクエンタテインメント)
(写真提供◎テイチクエンタテインメント)
コロナで陰にかくれた楽曲
オミクロン株が再び猛威を振るっている。収束を迎えたかと思われた新型コロナウイルスだが、また行動制限を強いられる日々に戻ってしまった、この2年、医療従事者の方々はもちろん、飲食業界、旅客業などに甚大なダメージを与え、小中学生の不登校数も過去最多の19万人を数えた。もう1つ、人が集まれないことにより、大きな影響を受けたのは、エンタメ業界だろう。
2019年12月、新型コロナウイルスの初の感染者が、中国の武漢で確認されたのとちょうど同じころ、喜多條さんの手による楽曲がリリースされていた。お互い旧知の中で、業界の親友でもあり、戦友として多くの作品に関わった小西良太郎さん。その二人が手掛けたと言えるのが2019年12月発売の、松本明子with杉岡弦徳「歌謡組曲 恋猫」だ。
このコロナ蔓延の直前に発売されたこの歌謡組曲は、予定されていたライブなども中止になり、陰に隠れたような作品になったままだ。小西さんにとって”戦友”とまで呼ぶ喜多條さんが亡くなった後、共に創ったこの素晴らしい作品を少しでも多くの人に知ってもらいたいという思いで追悼文を綴ったという。
喜多條さんは、その私生活も波瀾万丈で、一時はシングルファーザーとして2人の子どもを育てていた時期がある。詞を書いて酒を飲んで…という暮らしをいったん休み、その暮らしを長編小説『女房逃ゲレバ猫マデモ』としてまとめている。
この小説は、自身の飼い猫に主人公が人生相談をする。喜多條さんにとって、「猫」は特別な存在だったのかもしれない。