演じるのではなく、役を「生きる」

それから4年後の春に、再び河瀬監督からお声がかかりました。直接お電話をいただき、「次回作に出てほしい」と言われて、どんな役かも聞かずに、「出ます! スケジュールはなんとか調整します」と即答。その半年前の9月に希林さんは亡くなっていました。きっと河瀬さんの枕元で、希林さんが「この役を美代ちゃんにどう?」とささやいてくれたんじゃないかしら。

河瀬監督の演出は独特です。カメラがない状態でも役者が役を積み上げる期間─〈役積み〉があります。俳優は一定期間、現場で役になり切って生活し、撮影に臨む。つまり役柄を演じるのではなく、役柄を生きることを求められるのです。

『朝が来る』で私が演じたのは、産んだ子を手放さなければならない人と、子に恵まれない夫婦をつなぐ特別養子縁組の団体の代表。映画に、私が特別養子縁組を希望する家族の前で説明会を行うシーンがあるのですが、参加者からの質問内容は台本には書かれていません。どんな質問が飛び出すか予測できないのです。

私は代表としてその場で一つひとつ質問に答えなければなりません。そのため私自身が、団体の活動内容を把握する必要があり、大量の資料を読み込み頭に入れて撮影に臨みました。まるで受験勉強。説明会のシーンは短いですが、リアリティが出せたと思います。

この作品で、プロの批評家の投票によって選ばれる賞をいただけたことは感慨深いですね。それもこれも、河瀬監督と私を引き合わせてくれた希林さんのおかげ。授賞式には、希林さんの着物をお借りして、一緒にいるつもりで登壇しました。

数多くの映画賞を受賞した希林さんは、生前、私に「美代ちゃんも賞を獲れるといいね」と言ってくれていたので、きっと喜んでもらえたはずです。