「ネズミ捕り」のようなもの
中島 ある意味で、入管は彼らに「国に帰る」と言わせるのが仕事なのですね。そうした土壌があり、今年の3月には名古屋入管でスリランカ人女性のウィシュマさんが、手当ても受けられず放置され亡くなるという痛ましい事件が起きてしまった。
小林 入管で働く人たちは、自分たちは国を守る使命を果たしているだけと考えているのでしょう。疑いを持つ人は辞めてしまうから、疑問を持たない人が残り、目的のためには手段を問わず暴力もエスカレートしやすくなるのだと思います。
中島 それは職員の方にとっても不幸な状態ですよね。そういう仕事を国家が作るなんていうことは、あってはならない。
小林 ウィシュマさんの事件が起きるまで注目されなかったけれど、入管施設でのひどい事件は、ほかにもたくさん起きています。
中島 1997年から2021年までに、全国の入管施設内で21名の被収容者の方が亡くなっている。それでもなお「不法滞在するほうが悪い」という世間の声は決して少なくないのが現状です。
小林 たとえば『やさしい猫』の中では、クマさんが突然会社をクビになります。その上さまざまな事情が重なり不本意ながら不法滞在の状態に。それを相談しようと入管に向かう途中、入管の最寄り駅で網を張っていた警察に職務質問されて捕まり、施設に収容されてしまう。こんなことって本当に行われているのですか。
中島 入管問題に取り組んでいる弁護士の方から取材した実話をもとにしました。警察が交通違反の検挙数を上げるためにやる「ネズミ捕り」のようなものだとも言われています。
小林 本の中ではそんな入管の中でも逞しくサバイブしている人たちの話も出てきますね。電気ポットでケーキを作って食べたり、極限の状況で知恵を出し合い、国籍が違ってもかばいあって友情を深めたり。あのエピソードにはすごく救われました。
中島 収容所に以前いらした方からお話を伺ったんです。施設で出るまずいチキンでも、ポテトチップスの空き袋に入れてポットで温めてみんなで食べるとおいしいとか。非人道的な扱いを受ける人権のない空間でも、人間らしさを失わないでいたいという思いを感じました。