3歳違いでもうひとり孫が生まれ、上の子が幼稚園に入ると、雅子さんの孫育てはピークを迎えた。家事をこなしつつ、幼稚園への送迎をし、公園や動物園に連れ出す。「熱を出した」と幼稚園から連絡が入れば、予定を放り出して駆けつけた。

一度、息子一家が旅行に行く日の朝、出がけに立ち寄った下の子にアイスココアを作ってやったところ、車の中で下痢をして大騒ぎになったことがある。帰宅後、「冷たい牛乳なんか飲ませるから」と嫁がキレた。

「このときばかりは私も負けずに怒りましたよ。冷たい牛乳が苦手だなんて、知らなかったもの」

孫のお世話の方針が対立したとき、雅子さんは息子にではなく嫁に直接言うことにしていた。時には言い合いになり、雅子さんが電話を「ガチャ切り」することもあったという。

「不満は直接言われたほうが伝わるし、お互い後を引かないと思うのです。おばあちゃんだって人間ですから、言うべきことは言いますよ」

2人の孫が小学校に入り、学童保育を終えるまで、雅子さんは友だちからの旅行の誘いを断り続けた。

「孫から手が離れるまで、全部で10年かかりました。終わったときには、私の友だちがみんな『やったー』って大喜びしたくらい」

ベランダ伝いに祖母宅へヨチヨチとやって来た幼児たちはすっかり大きくなり、今は庭先で姿を見かける程度だ。じっくり話をするのは、お正月に全員が揃うときくらいである。

「今は自由に旅行だボランティアだと動けて、ちっともさびしくありません。あの子たちの一番かわいいときを一緒に過ごし、お世話をさせてもらったから、もう十分です」

背筋を伸ばし、優雅に両手を重ねて、雅子さんは微笑んだ。