●磯部温泉(群馬県安中市磯部)
北原白秋『雀の卵』/巌谷小波『日本昔噺』
群馬県安中市の磯部温泉は「舌切雀の里」として知られている。
北原白秋は大正10年、「葛飾閑吟集」「輪廻三鈔」「雀の卵」からなる、短歌687首、長歌12首、詩2編が収録されている『雀の卵』を編纂した。この『雀の卵』の中に磯部温泉で詠んだ次の歌が収められている。
「華やかにさびしき秋や千町田(ちまちた)のほなみがすゑを群雀(むらすずめ)立つ」
この歌碑は磯部公園に建立されている。
明治時代の児童文学者・巌谷小波(いわやさざなみ)が、舌切雀の物語を『日本昔噺』の中に書き上げた。おとぎ話自体は各地で昔からあったが、小波が児童文学として現代に残したことにより、磯部温泉は「舌切雀伝説発祥の地」とされるようになった。
「舌切雀のお宿ホテル磯部ガーデン」に巌谷小波の、
「竹の春雀千代ふるお宿かな」
の句碑が建てられている。さらに同館の敷地内には「舌切雀神社」が祭られ、ハサミ、つづら、絵巻物などゆかりの品々も所蔵されている。
また、磯部温泉は温泉記号《温泉マーク》の発祥の地として知られ、磯部公園には万治4年の「日本最古の温泉記号」の碑が、その記号とともに建っている。
※本稿は、『秘湯マニアの温泉療法専門医が教える 心と体に効く温泉』(中央新書ラクレ)の一部を再編集したものです。