「青木は面白いよ!」
玄関を出て、泣きながら急ぎ足で歩いて、大通りに出た。わたしの泣き声は、クルマの音にかき消された。
「青木!」
ふりかえると、後ろから自転車で健さんが追いかけてきた。わたしは、前を向き、さらに急ぎ足になった。自転車の健さんはあっという間にわたしに追いついた。
「青木!」
わたしは無視した。
「青木! 青木は面白いよ!」
健さんは、夜の大通りで叫んだ。叫ばないと声が聞こえないほどクルマの音が大きかった。
「青木は面白いよ!」
わたしは、健さんのほうを振り返り、こう叫んだ。
「わたしは、面白くない!」
「青木は、面白いよ!」
「面白くない!」
「面白いって!」
「面白くないから、いい!」
わたしは、泣いていて、なんだか健さんも少し泣き顔になりながら、わたしが面白い、面白くないを、ただただ叫びあった。