友人に「認知症かもしれない」と伝えることの難しさ
どうも年相応の物忘れとは違う。しかし、「思い違いだったら」と思うと、すぐには本人に言えなかった。
仲間4人でさんざん迷った末、私が認知症専門医の受診を勧めることに。まだ軽度認知障害の段階と思われ、適切に対応すれば改善が見込める。
「初期には画像診断が不可欠です。放射線科の医師なら先入観なしに画像を読んでくれるはず」と、親しい医師の助言を得た。
勇気を奮って私たちの心配を伝えると、彼女はあっさり受診に同意してくれた。
数日後。晴れ晴れとした笑顔で彼女がやってきた。紹介状をもらうつもりで行ったかかりつけの内科クリニックで、勧められるまま検査を受けたという。
「記憶力はまったく問題なしだって! 太鼓判を押されたわ」
予想外の展開だった。聞けば、広く普及している簡易検査らしい。認知症は周りの者が先に気づくケースが多い。周囲の人の話も聞かずに太鼓判を押すとは、と医師の診断に不信感がわいた。
しかし、彼女の笑顔を前に、「見当はずれな心配をしてごめんなさい」としか言えなかった。
医師の見立てに反して、彼女の症状は進んでいった。思い切って再び受診を勧め、2人の仲間が付き添って大学病院の認知症医療センターへ。
3度におよぶ詳細な検査の結果、20年秋の初め、アルツハイマー型認知症と診断された。
私たちの目の前の画面には萎縮した脳の海馬が映し出された。彼女に意外なほど動揺がないことに救われた。
友人に「認知症かもしれない」と伝えることが、これほど難しいとは思わなかった。高齢になれば誰もがなりうる病気なのに、気持ちが大きく揺さぶられた。