柚木 はい。その後も同様のドラマは続くのですが、就職氷河期といわれる時代になり、大学4年生で就活に苦戦していた私は、「えっ? 将来有望な男の家に転がり込めば解決するわけじゃないよね」と腑に落ちなかったし、そういう設定のドラマが古くさく思えたんです。現実がドラマの設定と乖離していった、と言えるかもしれません。
酒井 夢物語に憧れていても生きていけない、という実感ですね。
柚木 私と同じように感じ、この頃からドラマを観なくなった人は多かったのではないでしょうか。「月9」も勢いがなくなり、ドラマは低視聴率時代に突入します。そうしてドラマから離れていた人たちを呼び戻したのが、『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)。
失業した高身長の女(新垣結衣さん)が男のところに転がり込む設定は変わらないのですが、これまでと違うのは、ヒロインは男に養われることをよしとせず、女性側から雇用主と従業員という形の契約結婚を提案する点です。
酒井 結婚はゴールではない、と。
柚木 そもそも「無職でも女性は結婚すれば楽しく生きていける」というのは、ドラマを作っている側の都合のいい幻想でしたから。
酒井 今の時代、女性も職をもたないと人生を歩んではいけないうえに、その職はおいそれと得ることはできない。
柚木 そうですよ! 2000年代はじめの話に戻りますが、当時のキラキラしたドラマに対して「人生って、そんなに簡単でいいの?」と違和感を覚えていたときに燦然と輝いていたのが、『すいか』(03年)です。4人の女が一つ屋根の下で暮らす話ですが、問題が起きてもミラクルは起きず、でも日常は続くということを描いていて、共感する人は多かった。
酒井 小林聡美さんやもたいまさこさんが出ていた作品ですね。
柚木 「もうテレビドラマはダメだ」というときは必ず、小林聡美さん、もたいまさこさん、室井滋さんという『やっぱり猫が好き』の恩田三姉妹が支えてくれる。日本には「この人がなんとかしてくれる」という俳優がたくさんいるんです。