「昭和の男性作家が描く昭和の女は、性悪だったり、女同士でいがみ合ったりと、男が想像する類型的な人物像だったりしますが、それを市原悦子さんがドラマで変えていったということですね。」(酒井さん)

韓国ドラマはおばさんの連帯を明るく描く

酒井 なるほど。その点、韓国ドラマと比較すると?

柚木 人権が守られ、ジェンダーも重視され、格差問題もちゃんと描いている印象があります。面白さの背景にはそうしたこともあるのではないでしょうか。よい世界を描いて現実を変えていこう、というような高い志をもった人たちがテレビの現場に集まっているのかな、と想像しています。

酒井 韓国ドラマでは、中高年女性を悪く描かないですよね。おばさん同士の連帯や明るさ、たくましさが、観ていて気持ちがいい。

柚木 そうですね。でも実は日本でも、ネガティブな存在として描かれてきたおばさんを、市原悦子さんがポジティブに解釈して演じている作品があるんですよ。

酒井 『家政婦は見た!』(1983~2008年)ですね。

柚木 はい。松本清張の短篇「熱い空気」を原作とした第一作では、主人公はどちらかというとヒール(悪役)。シリーズ化するにあたって、市原さんが愛すべきキャラクターに作り替えたんです。結果、回を重ねるごとに、家政婦たちの団欒の場が増え、旦那さまの浮気は懲らしめるけど、奥さまには寄り添って、ときおり正義感を発揮するようになります。

酒井 昭和の男性作家が描く昭和の女は、性悪だったり、女同士でいがみ合ったりと、男が想像する類型的な人物像だったりしますが、それを市原悦子さんがドラマで変えていったということですね。

柚木 そうなんです。「私、この人のこと好きだわ。だって、夫もいなくて、お金もなくて、一人で頑張っているんでしょ。誰がこの人のこと嫌えるの」みたいなことを、あの声で言っていたんですよ。感動しますよね。