ヒロイン3人で紡ぐ物語。「未来なんてわからなくたって、生きるのだ。」のキャッチフレーズが、今こそ心にしみる(写真提供◎NHK)

三者三様のカラーを見せるヒロインが生きる時代

そして何よりも、ドラマを輝かせているのは、3人のヒロインたち。安子、るい、ひなたが生活しているのは、府県は違えど、町の商店街だ。今作は商店街で繰り広げられる人情劇もベースになっており、セットや衣装、商品、ヒット曲ほか、各時代を感じさせる小道具や美術設定に着目する視聴者も少なくない。

そもそも3人のヒロインのうち、1925(大正14)年3月22日、岡山市内の商店街にある和菓子屋に生まれた安子を演じる上白石は、純和風の愛らしいルックス。現在24歳ながら、どこか肝っ玉母さんを思わせるような貫禄とひたむきさは、安子にも通じるところがあるように感じる。

安子が生まれた当初、商店街にはまだ着物姿の人たちが溢れ、人力車も活躍。幼少時の安子は下駄を履きながら飛び回り、同じ商店街にある荒物屋「あかにし」で、店主がこの時代いち早くラジオを入手して聴いている様子に見入る。ラジオはまだ庶民には貴重だった時代にラジオを欲しがる安子のために、兄の算太(濱田岳)が「あかにし」からラジオを盗んでくるわけだが、後のひなたの時代にも同じようなことが起こる。

ひなたの弟・桃太郎(青木柚)が、失恋からヤケを起こして「あかにし」からCDプレーヤーを盗むのだ。安子のために盗んだ算太、自らの憂さ晴らしで盗んだ桃太郎と理由は違うものの、血の繋がりを感じてしまった。「あかにし」の売り物も時代によって変わっていき、懐かしく観た視聴者も多いのではないだろうか。

1962(昭和37)年に18歳になったるいが岡山を離れて大阪へ移ってからは、大阪・道頓堀の商店街にある「竹村クリーニング店」で生活する。故郷も家族も捨てて孤独に生きることを決めたるいを、竹村夫妻が大きな愛で包んだ。錠一郎のもとへ嫁ぐるいを親代わりとして送り出す回では、涙腺が崩壊した視聴者も多いのでは。4月5日放送の「クリスマス・ジャズ・フェスティバル」の客席に店の竹村和子(濱田マリ)の姿も見えたが、暗いトーンだった岡山編とは打って変わって、大阪編の明るさに救われた気がした。

それは、ロングヘアで十代のるいを演じた深津が、大阪でジャズと恋を知り、トランペッターだったジョーこと大月錠一郎(オダギリジョー)と出会って、ひなたの道を歩くようになったからだ。ラジオからは、1915(大正4)年に発売された「ゴンドラの唄」の「命短し 恋せよ乙女♪」というフレーズが聴こえ、ヒロインの心境や時代とともに、観ているこちら側も気持ちが軽くなる。

笑いと芸事の町でもある大阪という明るい土地柄。町には洋服を着る人たちが増え、高度成長期という時代もあって、戦争という悲しい時代と肉親との辛い別れを背負った安子の切なさが薄まっていく。女性たちが装う、昭和レトロなワンピース姿などは、今見てもカラフルでおしゃれでキュート。悲しくても心に刻んでおくべき時代を経て、力に溢れた時代へと、ヒロインの魅力のおかげで自然に引き込まれていった。