たまたま応募したのが『カメラを止めるな!』
それは33年前、私が証券会社に勤め出した頃に、吉本興業が大阪につくった養成所でした。なんば花月の前で1期生募集の看板を見た時、行きたいと思ったけど、すでに勤め先がありましたから。入所したら授業はほぼ毎日、平日の昼間にあるので、普通の勤めはできません。誰にも相談せずに裁判所を辞めて、念願の33期生となりました。
入所したからといって、全員が簡単に卒業できるわけではありません。挫折することもあります。だから私は芸人を目指してどうこうなるというより、まずは卒業することを目標にしました。目標が「卒業すること」だから、「そんなネタ、大和川(大阪を流れる川)に捨ててきなさい」と言われても、「はいはーい」とめげません。卒業後、芸人として活動をスタートしました。
2017年に、ある映画の舞台挨拶を見に行きました。「映画づくりってすてきやな」と感動していると、そこで次のプロジェクトの参加者募集をしていました。ワークショップをしながら映画づくりをするというので、「出演できたらエンドロールに名前が出て、記念になるかな」と応募したのが、『カメラを止めるな!』でした。
新人監督と、オーディションで選ばれた無名の俳優たちでつくった作品ですが、緻密な脚本や、冒頭37分ワンカットのゾンビドラマのシーンなどが口コミで広がって、社会現象になりました。去年(2018年)の今頃は、東京国際映画祭でレッドカーペットを歩いてたんですよ。イタリアやインドネシアの映画祭にも呼んでいただきました。
でも撮影中は求められる演技が全然できなくて。何度も何度も落ち込むたびに、仲間が支えてくれました。あの映画は、長いリハーサルを通じて、上田慎一郎監督が出演者の個性を見ながら脚本を書いた、「あて書き」なんです。監督は「普通の大阪のおばちゃんでいいから」とご両親よりも年上の私の緊張を解きながら、演技を教えてくれました。