「生きづらさの原因だったものが、『全部そのままでいい』と言われたようなもん」撮影:霜越春樹
2022年5月17日から始まったカンヌ映画祭。コロナの影響で2年ぶりに通常に開催されるカンヌのオープニングを飾るのは『カメラを止めるな!』をフランスでリメイクした『キャメラを止めるな!』。日本版のこの映画で「どんぐりさん」としてブレイクし、フランス版にも出演している女優・竹原芳子さんがレッドカーペットに登場(竹原さんは2021年3月に「どんぐり」から改名)。アマチュア落語家として西天満亭どんぐりとして高座にも上がる竹原さん。遅咲き女優の半生を自ら語った『婦人公論』2018年11月26日号の記事を再配信します。


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57歳の時に出演した映画『カメラを止めるな!』が大ヒット。登場シーンは短時間にもかかわらず、強烈な印象を残しました。最近では、ドラマ『ルパンの娘』で深田恭子さんの祖母役としてレギュラー出演するなどの活躍ぶりですが、それまでは、「やりたい仕事」を模索し続ける日々だったと言います。(構成=社納葉子 撮影=霜越春樹)

「なんで結婚しないの?」という周囲の声

自分がCMやドラマに出ることになるなんて、未だに信じられない気持ちです。共演した深田恭子さんはとにかくとってもきれいで。ほかにも、渡部篤郎さんやら瀬戸康史さんやら……わあー、テレビで見てた人ばっかりやぁ。カチンコチンになってたら、深田さんがギューッとハグしてくださって。緊張が解けました。

女優を「仕事です」と言えるようになったのは最近のことです。短大を卒業して、ごく普通に会社勤めしてましたから。でも30歳を過ぎた頃から、「自分に向いている仕事は何だろう」と考えるようになりました。同世代は、結婚して家庭に入ったり、仕事に邁進していたり。でも私は結婚の予定もなかったし、証券会社での仕事はやりがいはあったけれど、勤め上げたいという気持ちもなかった。

なのに、周囲はいろいろなことを言ってくるんですよね。「なんで結婚しないの?」「結婚もしないで、これからどうするの?」って。今なら「じゃあ、どうしたらいいの?」と言い返せるけど、当時はそのたびに、「本当にどうしたらいいんやろ……」と真に受けていました。

自分が結婚するイメージは持てないし、せめて何か身につけたい、手に職をつけたい。もっと自分に向いている仕事があるんじゃないか、という思いがありました。それで会社を辞めて、派遣会社に登録することに。主任という肩書きもあり、「もったいない」と言ってくれる人もいました。

でも、もったいないって何やろ、と思って。肩書きが通用するのは社内だけです。一歩外に出れば、私はただの「人」。それより、自分に合う仕事は何か探したかった。40歳で裁判所に準職員として採用されるまで、派遣先の会社では事務、受付、販売促進……、いろいろな職種を経験することができました。

一方で、ちょっと響くものがあったら、すぐに「習う」と勢い込んでもいました。その道の講師になりたいと思ったんです。感覚的に「いいな、やってみたいな」と思うものがあれば、向き不向きも考えず習いに行きました。

書道とかそろばんとかオルガンとかフラワーアレンジメントとか、もういろいろ(笑)。それで、どれもすぐ挫折する。同僚に誘われた社交ダンス教室では、お手本通りにやったつもりだったのに「はい、今のは悪い見本」と言われてイヤになり、やめたこともあります。