繊細なステージ衣装との出会いが
独自の「洗い方」を生み出すきっかけに
そこから、現在のように幅広い活動を手掛けるきっかけになったのは、ある劇団の衣装が店に持ち込まれたことでした。
普通の服とは違い、舞台衣装は一般には「洗えない」とされている素材が使われている場合が多いでしょう。スパンコールやオーガンジー、毛皮やプラスチックなどの素材が部分的に使われていることもある。しかも、汗びっしょりで、ドーランや口紅の汚れがついていることも少なくありません。
と言っても、繊細な素材でできた服ですから、洗濯機でガンガン洗うわけにはいきません。それぞれの素材に合った洗い方や洗剤を使って、丁寧に手洗いしていく必要がある。1着1着、ベストな洗い方も仕上げ方もまったく違うので、日々、試行錯誤の繰り返し。そんな、ある意味、究極の職人技とも呼べる作業を重ねているうちに、《洗濯の沼》に完璧にハマってしまって(笑)。そこから手探りで、うちの店ならではの「洗い方」を考案していったのです。
シルク・ドゥ・ソレイユの衣装を初めて見せていただいたときも、正直な話、「これを洗うのか!?」と、目が点になりました。その場には他のクリーニング会社さんも同席していたのですが、「これはうちでは洗えない」と、途中で退席してしまうほど、複雑な素材の衣装ばかりで。でも、僕はむしろヤル気が湧いてきた。これをきちんと洗えたら、《洗濯屋》としてもっとステップアップしていけるはずだって。もうひとつ、汚れているものを見ると、「これをきれいにしてやろう!」と、脳内からドーパミンがドバドバ出るんです。もはや、洗濯への偏愛と言えるのかもしれません(笑)。