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2歳で子役として芸能界に入り、作曲家の神津善行さんと結婚後も、女優として活躍し続けてきた中村メイコさん。仕事でも家庭でも変わらずパワフルなメイコさんのことを、娘のカンナさんとはづきさんは「規格外の母」と言います。神津家の女性3人は、家での役割をそれぞれどのように受け止め、向きあってきたのでしょうか(構成=福永妙子 撮影=宮崎貢司)
「普通のお母さん」も役の一つだった
メイコ 家庭を持って62年がたつけど、私、妻として、母としてなんて、語る資格がないわよ。
はづき 一般的な「お母さん」というイメージはないものね。
カンナ 私は4歳の時、友だちの家に遊びに行くようになって、うちがよそと違うのを感じた。お父さんは作曲家だからいつも家にいて、お母さんはほとんどいない。しかも出かける時にはハイヒールを履くとか、つけまつげをするとか、なんだかよそとは違う。
はづき 外で仕事をして家に帰ると、女優から「お母さん」に切り替わるんだけど、それがわかりやすい。まず形から入るのね。洋服から紬の着物に着替えるとか。(声色を変えて)「はい、疲れたでしょう」「あら、庭の梅が咲いたわね」。ん? 誰のマネ? って。
カンナ そうそう、紬の着物! あと桜茶を出すとか。いちいちドラマみたいだった。お母さんは2歳半から役者をやっているから、「普通のお母さん」というのも「役」の一つだったんだろうねえ。
メイコ 自分ではできる限り「普通のお母さん」をやっていたつもりだけど、こうしてあなたたちの話を聞くと、変なお母さんと思われていたみたいね。たしかに、役柄から入っていくクセはあった。結婚したら、ごく平凡な「いい妻・母」をやろうと思ったのよ。
いいお母さん役が上手だった女優さんって、杉村春子先生をはじめとして、森光子さん、京塚昌子さん、八千草薫さんもそうだけど、実生活ではお子さんがいらっしゃらない。つまり、照れずに、客観的に母を演じられるの。
はづき だから、そういう女優さんと同じようにやれば、「お母さん」としてハズレがないと思ったのね。しかも季節とか、家に来るのがどういう友だちかで、「母親」としてのキャラクターが変わるのよ。ある時はきりっと厳しい山岡久乃さん。
カンナ 自分が学校に通えなかったこともあって、子どもの学校に行くのが好きだった。参観日はお母さんのほうが楽しみにしてたでしょう。
メイコ カンナから「『この問題がわかった人』と先生が言っても、お母さんは黙っているように」と事前に指示されていたのに、「は~い」と手をあげて、先生に「お母さま、お静かに」と注意されちゃった。(笑)
はづき 「ムリしないで」と言っているのに、私たちの学校行事には舞台公演の合間でも来たよね。だから顔は白塗り状態。それで、「はーちゃん、来たわよ」と言われてもね(笑)。お弁当も毎日、たとえ舞台の初日でも作ってくれた。中学生にもなると、「今日はパン買ってね」と300円渡されたほうが嬉しいのに。この時のお母さんは、「初日を控えているのに、お弁当を一所懸命に作る母」の役に浸りきっていたんだと思う。
カンナ お弁当といえば、そもそもお母さんはお料理で味見をすることがないわ。だからお砂糖と小麦粉を間違えても気づかない。まずいというより、得体の知れないシロモノがいろいろと出てくる……。
はづき 食事中、お父さんがポケットからこっそりビニール袋を出して、「ここに入れろ」って。子どもたちで回した後、お父さんが回収してたの、知らないでしょ。(笑)
メイコ そんなことあったの? 私はいつも「これで大丈夫?」「ちゃんとできてるかな」とほんとにドキドキ気分だったのに。まさか、あなたたちがガマンしてたなんて。
カンナ うん、ガマンしてた。(笑)