親との思い出の詰まった家を、親が逝ったからといってただちに処分することは難しい。そのまま置いておきたいという気持ちが勝るのは、理解できる。
父亡き後は、友人に格安で貸すために家を維持しているような気がして、釈然としない気持ちになったこともあるカスミさん。しかし、賃料は少額とはいえ、借地代や固定資産税をまかなってもお釣りがくるのも事実。残された家財道具を片づけるのも面倒なので、しばらくはこのまま静観するつもりだ。
「私には子どもがいませんが、妹のところに2人の息子がいるので、いずれどちらかに相続してもらって、なんとか活用してもらいたいと思っているところです」
◆売るに売れないどん詰まりの家
ヨリコさん(54歳)の夫の実家の場合は、切羽詰まった事情があった。
「築60年の実家は、空き家になって5年。もともと朽ちかけた家が、今ではさらにボロボロになって。建て直すにも現在の法律に照らすと小さな家しか建てられないし、更地にしても細い路地のどん詰まりの家なので駐車場にすらできない。絶対売れない土地なんです」
ヨリコさんにとっては不良資産以外の何物でもない夫の実家。相続させられたうえに、家を譲ってあげたと言わんばかりの義姉の態度にもイライラが募る。
「動産は義姉と義妹で分けて、家だけ夫に相続させたんですよ。長男だからってこんな家を押しつけられるなんて、ホント頭にきちゃう」
しかし、今にも潰れそうな家をこのまま放っておくわけにもいかない。ただ、取り壊して更地にすれば固定資産税は今の6倍かかる。建物の有無で固定資産税が違うのは、かつて家不足の時代に、遊休地に住宅建設を促進させる狙いがあったから。今はそんな時代でもないのに、と文句を言いたい気分だという。
「郊外とはいえ、通勤に便利な場所ですから、どん詰まりでさえなかったら売れる土地だと思うんです。私が『どうするつもりなの!』って言うたびに、夫は、実家の悪口を言われているような気になるのか機嫌が悪くなる。夫婦喧嘩の元です」
夫婦仲にも影響するようでは、夫の親も浮かばれないというものだ。
それがつい最近、ヨリコさん夫婦にかすかな希望が見えてきた。
「うちを入れて5軒の家が軒を寄せ合っている一角を、丸ごと開発して集合住宅を建てようという計画があると小耳に挟んだのです。街の不動産屋さんから聞いた噂話ですが、その手があったか! とちょっとうれしくなりました」
地権者は5人。それぞれに事情や都合があるだけに一筋縄ではいかないだろうが、望みがまったくないよりはましというもの。
「お隣は70代のご夫婦。向かいの家は大学生くらいのお子さんがいるから、もうすぐ結婚して家を出ていくはず。2軒隣はおばあちゃんのひとり住まい……と、周囲の状況を探っています。なんとか道が拓けるような気がしてきて、少し気持ちが落ち着いてきました。それまでは、家が壊れないよう、夫に家の修理をしてもらうつもり。あと5年、いや10年の辛抱だと自分に言い聞かせています」
その前に、大学生のいるお宅が別棟を建てたいから土地を譲ってほしいと言ってくるかもしれない。ヨリコさんはチャンスを逃さないよう情報収集に余念がない。