◆実家の処分に感傷は禁物

メグミさん(45歳)の実家は札幌にある。東京で働く一人娘のメグミさんが仕事を続けられるよう、ひとり暮らしの母は札幌と東京を行き来して子育てを手伝ってくれた。3年前の夏、いつものように上京していた母の体調が急変。そのまま秋には帰らぬ人に。実家は主のいないまま越冬することになった。

「雪国の冬は忙しい。除雪車が通った後の家の前は、その家の住人が自分たちで“雪はね”をして通り道を確保しなくてはいけません。屋根に積もった雪は重なり固まって、家が傾いたり、氷が滑り落ちて危険な状態になったりする。だから、屋根の雪下ろしも日々欠かせません」

とりあえず、隣の家の奥さんに電話して事情を話し、後日、報酬を払うことで除雪をお願いしたメグミさん。毎冬、これを続けるわけにはいかない。メグミさんは、次の冬までに実家を処分することを決めた。

「本当は夏の別荘代わりに実家を残しておきたかったのですが、その望みを雪が消し去りました。雪がなくなったらなくなったで、無人の家は放火などの心配もあるというので、手放す覚悟を決めたんです」

母を亡くしたばかりで実家を手放すのはつらかったが、一人っ子で、近くに頼る親戚もいなかったメグミさんにとっては、避けることのできない決断だった。

「私自身、休みが取りにくい仕事をしていましたから、しょっちゅう札幌に帰るわけにもいきません。小学生の娘の春休みに合わせて1週間の休みを取り、その間に、家の片づけから売却手続きまでを済ませてしまおうと決めました」

東京でできることはぬかりなく行った。信頼できる会社を探そうと、札幌の不動産屋のリサーチを開始。ウェブサイトから問い合わせメールを送ったり、地元の友人に評判を聞いたりした。

「メールを送った不動産屋さんの中に、反応の良かったところが1軒あって。そこは実家周辺のエリアをよく知っていたようで、話が早かったのが決め手になりました」

札幌に着いた初日、不動産屋と家を見に行った。売ると決めていたものの、未練もあって「貸家にはできないか」「駐車場にしてはどうか」と提案してみたメグミさん。不動産屋の答えは「築30年の木造家屋の貸家は維持費に見合わない」「駐車場にしても期待する収入は見込めない」というシビアなものだった。

「東京の感覚で住宅をとらえるのは間違いだと肝に銘じました。家を解体して土地だけを売りに出したほうが早く売れる、という不動産屋さんの言葉を信じて、決めました」