エピソードは数えきれませんが、あれだけ聴覚が優れていてすぐに駆けつける瞬発力があるのだから、要人を守るシークレットサービスにでもなればいいのに、と妙に感心してしまいます。それに70代で塀から身を乗り出せるなんて、見事な柔軟性です。それなのになぜ、頭はあんなに固いのでしょう。
ある日、近所の方からある噂を聞きました。同居する息子夫婦が子宝に恵まれず、とある形で子どもを迎えることになったのだと。当人が納得して幸せに子育てをしているなら問題ないのでしょうが、もし田舎特有の世間体を気にしたうえでの決断だったとしたら。すなわち、彼女の見栄のための選択だとしたら……。どうしてもネガティブな想像をしてしまい、裏がとれているわけでもないのに複雑な気持ちになってしまいました。
あれから17年。90歳近くなった彼女は、相変わらず「子どもは、まだ? 早く産まないと」云々。「アタシはもうすぐ死ぬんだからいいけどね」と話しかけてきます。思考がプログラム化されてしまったのでしょうか。年齢的には、「孫は、まだ?」ですよね。まあ、子どもがいないので孫も何もないのですが。
それにしても、顔を合わせるたびにパワフルさが増していく気がします。好きなことをして、できるだけストレスを溜めないのが長生きの秘訣だとよく聞きますが、これだけ思ったことをズケズケ言えるのだから、ストレスで倒れるどころか元気で長生きするわけです。
私は彼女の「ご長寿プロジェクト」に貢献している――そう思えば腹も立ちません。人生100年時代、これからもご長寿目指して嫌みを言いにいらしてくださいね。