「道代さんは時間の過ごし方がうまい」(写真提供:photo AC)

道代さんの姿は何よりの教科書

順子さん自身もコロナ下での変化があった。特に1年目はサロンを休業し、月に1度の出張を兼ねた東京に住む子ども宅への訪問も中止にしたことで、気分が落ち込み、ふさぎがちだった時期もある。

「仕事を休んだら好きなことができると思っていたのに、むしろ何をするのもおっくうになってしまって。瀬戸内寂聴さんが『私は生産的な時間を過ごさないとウツになる老人だ』みたいなことをエッセイに書いていらしたのを思い出し、ああ、寂聴さんほどの人でもそうなのかと」

突然できた空白の時間を持て余して軽いウツ状態になってしまった自分と比べ、道代さんは時間の過ごし方がうまいと感じたと、順子さんは言う。

「彼女は料理にしても本当にマメで。6月には梅仕事、冬は豆を煮るとか、下ごしらえから手抜きせず、旬を生かした美味しいお料理を作る。《生きる歳時記》みたいなんです」

最近では電話とLINEを使って、ラッキョウの漬け方を教えてもらったという。

「コロナ下では、自分を見つめる時間が増えました。そんななかでも常に前を向き、楽しいことを探しながら、日々を丁寧に生きている年長の友の存在は心強いですね。それに、病気や足腰の衰えなど、年を重ねることで出てくるさまざまな問題にマイペースで向き合う道代さんの姿は何よりの教科書です」

老いていくのは、悪いことばかりではない。体や心が思うようにならなくなっても、年齢なりの楽しみは身近にたくさん見つけることができる。そんなことに気づかせてくれるのはいつも、人生の先輩でもある友人の後ろ姿だ。