「当時は現金払いだったから、そのお金をお姉ちゃんが夜中に畳の上に1枚ずつ並べてた」(上沼さん)

2人揃って同じ年に結婚して

上沼 初舞台は名古屋の大須演芸場で、私はまだ13歳、お姉ちゃんは19歳やった。

芦川 10日間の公演中は、ずっと楽屋に泊まってたね。その時に出会ったのが、うちの夫。

上沼 お義兄さんは、東京の芸人さんでね。「千里・万里ちゃん、もう寝た?」って標準語で話しかけてきて。標準語に弱い姉妹なんやろな。毎晩、焼きそばとかお好み焼きを買ってきてくれて。お姉ちゃん、目がハートになってた。

芦川 なったね。その時に「ああ、なんてええ人、あったかい人」って思ったの。

上沼 お姉ちゃんは、私を守らないといけないし、でも知らない土地で心細い。そんなところへ毎日、粉もんばっかり持ってくる。もう、王子様です。

芦川 そうや。

上沼 何とか10日間の公演を乗り切ったら、私は中学校生活に戻ってね。

芦川 私は、海原お浜・小浜師匠のところへ修業に行ってた。

上沼 師匠には、礼儀を厳しくたたき込まれたよね。

芦川 そうそう。厳しかったけど、人徳者やった。

上沼さん(右)がまだ中学生の頃の海原千里・万里(写真提供◎上沼さん)

上沼 夏休みに、お浜師匠のかばん持ちの仕事に行った時、「おはようございます」って挨拶したら、「妹、笑いすぎや」って注意されたんよ。「あなたは可愛いから、笑ったら挨拶した相手が変な気持ちになって、誤解される」って。それからは、しかめっ面で挨拶しないといけなくて。お姉ちゃんは、注意されなかったよね。

芦川 そんなことないわ! 若かったから、注意されたわ!