〈Answer〉
他者に一度も嘘をつかずに関係を続けられるのでない
限り、不倫はやっぱり悪いです

私は高校で倫理という教科を担当しているのですが、初回の授業でよくやるツカミとして「『倫理』の『倫』とは『ひとのみち』を意味する漢字です。ですから世間一般では、ひとのみちから外れることを……」とここまで話すと、あちらこちらからクスクスと笑い声が漏れます。

彼らの頭の中には「不倫」という二文字がチカチカ浮かんでいるはずで、本来「不倫」とは不道徳な行為全般を指し示す言葉であったはずが、ことほどさように「既婚者が配偶者以外の人間と不適切な関係を持つこと」として浸透しているわけです。すなわち「不倫=不道徳な行為の代表」と認識されていることの証左でもありましょう。

さてご質問の件です。批評家の小浜逸郎は、結婚を「社会的な行為」と定義づけます。そもそも人間の性愛意識は無秩序かつ暴力的なものであり、それを野放しにして社会が崩壊するのを防ぐために結婚制度が作り上げられたのだとします。

つまり結婚とは契約に基づく「制度」なのであり、にわかに燃え上がったり移ろったりする「感情」とは性質を異にするものなのです。ちなみに江戸時代にも不義密通を死罪とする法律がありましたし、戦前までは姦通罪も効力を持っていました。しかしこれは、家制度が重視される社会における「女性を所有する父や夫に対する所有権の侵害」という意味合いが強いものでもありました。

現在では小浜が指摘するように不倫は社会的犯罪としては捉えられず、「不貞行為」という義務不履行の問題として扱われます。それは不倫が「心の問題」であり、本当は制度で縛ることができないものだということに、皆薄々気づいているからではないでしょうか。