「嘘」とは相手の信頼を裏切る行為

カントは、いかなる場合にも嘘をついてはいけないという(イラスト:オギリマサホ)

そうは言われても、やはりどこかで「不倫はやっぱり悪いことなんじゃないか」という気持ちが拭えないと思います。改めて「不倫がなぜ悪いのか」と問われれば、私は「多かれ少なかれ嘘を伴うから」と答えたいです。「今晩は仕事で遅くなるよ」と妻に伝えて密会する夫、不倫相手の名前を女性名で携帯に登録する妻……。

ドイツの哲学者カントは、いかなる場合にも嘘をついてはいけないということを主張します。なぜならば、「嘘」は言表一般の信用をなくさせ、人間性一般に害を与える行為だからです。「嘘」とはまた、相手の信頼を裏切る行為です。

それはバレるバレないの問題ではありません。「不倫」は犯罪ではないという点では「悪い」行いではないのかも知れませんが、「倫ナラズ」という言葉の通り、不道徳である行為には違いないのだと考えます。嘘に嘘を重ねた人生、一体どうなるのでしょうかね……。

カント
1724年東プロイセン・ケーニヒスベルク(現ロシア・カリーニングラード)生まれ。哲学者。当たり前のことを再度考え直す、批判哲学の著書を3冊発表した。哲学のルールブックといわれる『純粋理性批判』では、人は何を知りえるのかを論じた。『実践理性批判』で、人は道徳に基づいて何をすべきなのかを決めているとし、『判断力批判』では、人は美学を判断基準にしていると説いた。
小浜逸郎
1947年横浜生まれ。批評家。国士舘大学客員教授を務める。家族論、教育論、思想、哲学など幅広く批評活動を展開。

※本稿は、『半径3メートルの倫理』(産業編集センター)の一部を再編集したものです。


半径3メートルの倫理』(著:オギリマサホ/産業編集センター)

「上司の発言がコロコロ変わる」
「他人の行動にイラついてしまう…」
「一線を越えるの""一線""って?」etc...

私たちの身のまわり=半径3メートルくらいの中にあふれる些細なモヤモヤを、著名な哲学者たちの言葉や知恵を借りて楽しく解決する倫理学エッセイです。

お悩み内容&回答者(一部)
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