深夜、寝ていた私の耳にボーンボーンと柱時計の音が聞こえてきました。子どもの頃に家にあったなぁ。無意識に音を数えます。いち、にい、さ……時計なんてあるわけないじゃん! ハッと目が覚めた瞬間、髪の毛の中ににゅーっと誰かの手が入ってきて頭を押さえつけられました。

枕元にはソバージュヘアの痩せた中年女性。周りを小型犬がキャンキャン鳴いて走り回っています。なぜかすぐそばにピアノがあると感じました。そう、私たちより先に住んでいる人がいたのです。

嘘でしょ。でも、絶対に夢じゃない。今は自分に多少の霊感があることを自覚していますが、当時は半信半疑でした。初めての自宅購入に舞い上がっていた夫にこのことを伝えるわけにはいきません。今さらキャンセルなんて無理。でもどうしよう。あの女性が家族に危害を加えたりはしないだろうか。まさか一緒に暮らすことになるの?

不安の中迎えた引っ越しの日。新居への荷物の搬入が始まりました。大型家具を入れ始めたその時。ガチャーン! ドン! 大きな音が響きました。いったい何? 見に行くと庭にタンスが転がり、キッチンの窓ガラスが割れています。業者が2階にタンスを吊り上げようとしたところ、失敗したようです。

その瞬間、見てしまいました。あの女性が空高く飛んでいくのを。「ハハハハハ」と高らかに笑いながら。

――ああ、出て行った。

タンスが壊れたのは残念ですし、夫はかなり怒っています。でも私は安堵感で笑顔になるのを抑えるのに必死でした。ああ、家族みんな無事でよかった……。