「私にはできない。出ていって!」
ところが、その後も家の中にあちらの方が現れたのです。2階で洗濯物をたたんでいると目の端を何か白い塊がサッとよぎります。岩のようにじっと座るおばあさんや、赤い目をしたおじさんが枕元に見えたことも。
そして引っ越しから7年経ったある晩、若い男性の霊が寝室にやってきました。「助けて!」と叫び、私の右腕を掴む男。布団の横にあったおもちゃのキッチンがカタカタ鳴っています。「私にはできない。出て行って!」と繰り返すと消えたのですが、霊に触られる経験にゾッとしました。
だんだんと霊感も強くなってきている。このままだと取り返しのつかないことになりそうだ。もう限界、引っ越そう。次こそは、夜中に誰も起こしに来ない家に――。
それから20年以上が経ちました。何度か引っ越しましたが、霊が見えたことは一度もありません。そういえば、あの家は、正面の坂に神社が見え、裏手には古い祠がありました。もしかしたら、霊の通り道に建てられた家だったのかもしれません。