概要
旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫るBS日テレの報道番組「深層NEWS」。(月〜金曜 午後10時から生放送)読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める飯塚恵子編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。
安倍晋三・元首相が奈良市での街頭演説中に銃撃されて死亡した事件から約3カ月。事件が浮き彫りにした要人警護の課題は何か。そして同様な犯罪を抑止するには何が必要なのか。米村敏朗・元警察庁警備局長と、日本大学の福田充教授をゲストに迎えた8月11日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。
安倍氏暗殺警護の課題
前例踏襲の文化
「要人警護に限らず、危機管理の要諦は『想像と準備』だ。今回の事件現場は周囲360度を聴衆に囲まれていた。『想像と準備』ができていれば危ない場所だと分かる。私なら後ろに(防御用の)バスを立ててほしいと言っただろう」=米村氏
「私も現場に行ったが、守るのが極めて困難な場所だった。なぜあそこで遊説をやったのか」=福田氏
飯塚警察庁は8月末、今回の事件の警護を検証する報告書を出し、後方の警戒に空白が生じたこと、奈良県警の警護計画に問題があったことなどを指摘しました。さらに警察庁は、都道府県警の警護計画を事前審査することなどを盛り込んだ新たな「警護要則」を策定しましたが、遅きに失した感は否めません。
吉田政治家の地方遊説に何度も立ち会ってきた経験からすると、警視庁のSP(警護員)は確かによく訓練されていて、顔見知りの私でも不用意に警護対象に近づくとはじき飛ばされた。しかし、地元警察の警備担当は正直に言えば練度で格差を感じました。実際、今回も県警の警護員はまず安倍氏を守るべきなのに犯人に向かっていってしまった。警備の基本ができていなかったと言わざるを得ません。
飯塚中村格警察庁長官と奈良県警の鬼塚友章本部長(いずれも当時)は、8月末に引責辞任を表明しましたが、今回の事件の詳細を知るほど、警察の構造的な前例踏襲文化の帰結であったように思えます。責任は現職にとどまらないのでは? 番組の中で、ゲストの米村氏は警備システムの「破綻」を第三者的に分析していました。でも、率直にいえば、米村氏自身も警察庁の警備局長という、警察の警備のトップを務めておられた。前例踏襲文化の構築に無関係ではなかったという指摘も聞こえます。
吉田6月には同じ場所で自民党幹事長が街頭演説を行っており、その際の警備体制を漫然と踏襲したことが致命的でした。今回の事件では、随所に警察組織の緩みを感じました。警察庁は世界的にテロなど凶悪犯罪の危険性が増している時代をちゃんと認識できているのか。今回の失態の根源を重ねて問い直していってほしいものです。