実は、母が介護を必要とするようになった頃、私はデビュー40周年を迎えました。本来ならば、40周年記念のステージやイベントを行うタイミングで、実際さまざまな企画が持ち上がっていたのです。でも、「あのとき、お母ちゃんにもっとこうしてあげればよかった」という後悔はしたくなかったので、自分の仕事よりも母の介護を優先することにしました。

私が幼い頃から、母はいつもお店の仕事で忙しかったし、私も歌手デビューして早くから実家を離れてしまったために、それまでは母娘でゆっくり過ごす時間も滅多になくて……。だからこそ、最後くらいはずっと母のそばにいることが何よりも大切だと考えたのです。

 

母と密に一緒にいられてありがたい

母を在宅介護することに関しては、兄もまったく反対しませんでした。「おまえのそばにいることが、お母ちゃんは一番幸せだと思う」って。それに正直な話、いざ介護をする状況になったら、男の人ってダメでしょう(笑)。細かなケアは、やっぱり女でないとできないことがたくさんありますからね。

おまけに兄は独身なので、女性の身の回りのことなんてぜんぜんわからない。うちに母の様子を見に来ても、具体的に何か手伝うわけでもなく、「大丈夫か?」なんて母の頭をさすったりして、「うるさい!」って母に叱られていたほどです。(笑)

でも、兄はそういう人だと最初からわかっていたし、何も期待していなかったので、「私だけが介護をするなんて不公平」と感じることもまったくありませんでした。むしろ、私が面倒をみさせてもらうことで、母と密に一緒にいられてありがたいって。

だって、大切な自分の母親じゃないですか。自分が赤ん坊だったとき、母が私のオムツを取り替えてくれて、よだれかけをかけてくれ、離乳食を食べさせてくれたのです。その母のお世話をするのは私にとってはあたりまえのことだし、自分の手で最後まで母を介護できたのはとても幸せなこと。

スーパーで、「ああ、これ、お母ちゃん好きやったな」と思いながら買い物するのも、「お湯かけるから、耳ふさぎ」って言いながら、母の頭をシャンプーしてあげるのも親子が逆転したようで楽しかった。「女だから、私ばかり介護をさせられて損!」なんて、これっぽっちも思いませんでした。

それと、うちは夫が非常にマメな性格で、母を自宅で介護したいと言ったときも快く賛成し、介護認定に関する煩雑な手続きや、ヘルパーさんたちへの諸連絡もすべてやってくれたのです。私は細かな事務手続きが苦手なので、とても助かりましたね。

私が仕事で家を空けるときも夫が母の面倒をみてくれて、私の代わりに母の下着を上げ下げし、トイレの介助までしてくれて。自分とは血のつながっていない母にそこまでしてくれた夫には、本当に感謝しています。