兄と私がこの世を去ったら…

それだけ介護に軸足を置いて生活していたにもかかわらず、2年前の10月に母が亡くなったときは、「まだまだしてあげられることがあったのではないか」と悔やむ気持ちもありました。ただ、無理な延命措置はしなかったおかげでまったく苦しまなかった。私が死に水を取って、自宅で家族に囲まれながら眠るように逝った母を静かに見送ることができたのは、娘としては悔いのない別れだったと思っています。

葬儀の喪主は私が務めることになりました。本来ならば長男である兄が喪主の立場なのですが、最後まで一緒に過ごしていた私のほうがふさわしいということで。お葬式に関しては、母も喜んでくれる形で見送ることができたと思います。

というのも、母がまだ60代だった頃、一緒にワイドショーを見ていたら、ある有名人のお母様のご葬儀の様子が放映されました。祭壇にお花がたくさん飾ってあって、大勢の参列者が来ていて。それを見て、「お母ちゃんが死んだときも、こんなふうに送ってくれるか」と、母が言ったんですよ。

その言葉がずっと心に残っていたので、母が亡くなったとき、生前、母が知り合った方々にできるだけ大勢来ていただこうと考えて、結果として、お通夜と告別式の2日間で1000人以上もの方が駆けつけてくれました。人が大勢集まる賑やかな場が大好きだった母にふさわしい葬儀だったと思います。

お葬式はそれでよかったのですが、今、私が悩んでいるのは実家のお墓の問題です。実は、先に亡くなった父は奈良にあるお墓に眠っているんですよ。本籍が奈良だったので、まだ生きているうちに父が自分のお墓を建てて、「これでお父ちゃんは安心して眠れる場所ができた」って。

でも、「東京から奈良までお参りに行くのはしんどい」と、母も生前言っていたので、いずれは父の墓を東京に移すつもりだったのです。それが実行に移せないまま母も亡くなってしまったので、いったいどうしたものやらと思案中で。

兄の住む町田の家の近くにいい墓地ができたので、そこに新しいお墓を買って父と母のお骨を入れるべきかと考えたり、いやいや、冷たい墓石の下に母のお骨を納めるのは嫌だと思い悩んだり。あれこれ考えても結論が出ないので、亡くなって1年半以上たった今でも、母のお骨はうちの仏壇の横に置いたまま。