事情が変わったのは、義父母が相次いで他界した10年ほど前。年老いた義父母は病に倒れる直前まで、次男の将来の蓄えにと、工場勤務や運送業、農業で身を粉にして働いていた。
「ウチは夫の実家から車で1時間ぐらいなのですが、義父母の死後は、夫が週に一度通うようになりました。義弟は町内会に加入していないので、地域のゴミ集積所を使えない。週末に夫が行ってゴミを処分し、義弟の様子も見に行っています」
最近気になるのは、お金のこと。引きこもっていても、税金、水道光熱費、生活費など出費があるはずで、夫が持ち出しで義弟にいくばくかの金額を渡しているらしいことに気づいた。義父母が義弟に遺した生活資金がすでに底をついたのだろうか。
「夫は、自分の口座からお金を引き出して立て替えているようなんです。でも義弟の話題を振るとすごく不機嫌になるので、問いただすのも難しくて」
義弟の生活を丸抱えし続ける経済的余裕はない。そこで飯島さんは数年前に夫を説き伏せて、義弟が住む市の役所に足を運び、生活保護受給の相談をした。しかし、「医師の診断書もなく、本人の意思も確認できないのではどうにもならない」と、取り合ってもらえなかった。
「夫にとっては、たった1人の血を分けた弟だから放っておけないのはわかります。それに正直言って、強引に援助を打ち切ったら、自暴自棄になって何をしでかすかわからないという不安も。申し訳ないけれど、義弟が夫より先に逝ってくれれば、と思ってしまうんです。夫が死んだあと、私がゴミ捨てに通ったり、金銭援助を続けるなんてできません。夫は『俺が死んだらアイツは放っておけ』と言いますが、そういうわけにもいかないでしょうし……」
「弟のことでは一切迷惑をかけない」という婚前の誓いもあやしくなってきたと、ひそかにため息をつく毎日だ。