唯一の男きょうだいである兄は、姉妹の《確執》に巻き込まれないようにしていた。地元で就職して結婚。実家の隣町に住み、ときどき老いた両親の様子を見に来てくれている。鈴木さんとは、お盆や正月など帰省したときに顔を合わせるくらいだ。
「私は就職してからずっと東京暮らしなので、実家のことを逐一把握しているわけではありません。でも、《未婚で自立しない姉》の将来を心配して、両親が手を打っていたんだな、と思われることも」と鈴木さん。
それは、十数年前に祖父から受け継いだ土地に小さなアパートを建てたこと。母からその話を聞かされたときは「ふーん」と思う程度だったが、きっと両親は自分たち亡きあとの長女の行く末を案じて、アパート収入を姉の老後資金に役立てる心づもりだったに違いないと、いまは確信している。
「ただ、相続することになっても、姉にアパート経営ができるとは思えません。結局は兄が手助けせざるをえないでしょう。私自身は東京を離れることまでは考えていないので、兄夫婦のサポートに徹したい。だから姉の将来のことを考えるときは、兄と義姉には気を使わなくてはと、いまから覚悟しているんです」
実家の動向を知るのは、基本的に母親からのメールのみ。最近届いたメールでは、「物忘れが激しくなってきたので、認知症を疑って、検査を受けた」とのこと。幸い母の認知機能に問題はなかったが、両親ともに、もう80歳間近だ。何年か先には介護問題などが起きる可能性もある。
「3人きょうだい、それぞれ別の人生だと思っていました。いまは平穏を保って先送りにしているけれど、親が亡くなったあとのことも考えなければならない時期なんですね。兄とはどこかで話さなければとは思うんですが、いまは仕事も子育ても忙しいので、なかなか時間が取れなくて」
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「自立しないきょうだい」の将来を見据えたとき、家族に打つ手はあるだろうか。親亡きあと、否応なしにほかのきょうだいへ負荷がかかってくる場合もある。見捨てることもできないし、かといって人ひとり背負う余裕がない場合もある。自分の生活と肉親への情の狭間で、ベストな方法を見つけるのは容易なことではない。