左から、畠中雅子さん、岩井志麻子さん、池上正樹さん(撮影:本社写真部)
子どもが自立した生活ができないまま歳を重ねることになれば、親やきょうだいの生活設計にも大きな影響が出ます。多くのひきこもり当事者を取材してきた池上正樹さん、「働けない子どものお金を考える会」を主宰する畠中雅子さんに、脛齧り中の息子を持つ岩井志麻子さんが、「8050問題」に潜む背景を聞きました。家族が前向きな気持ちになるための方法はあるのでしょうか(構成=篠藤ゆり 撮影=本社写真部)

誰でも、何歳からでもひきこもる可能性はある

池上 いま幅広い世代から関心を集める「8050問題」ですが、その多くは、言うなればひきこもり問題が長期化した結果。そのうえ、2020年からのコロナ禍でひきこもり層がさらに厚くなり、深刻さを増しています。

岩井 失業をきっかけにひきこもった人は、コロナが収束したらまた働きに出ればいい、というわけにいかないですよね。

池上 キャリアを積んできたのに、いきなり解雇されるわけです。これまでの経験を生かせる仕事ばかりではないし、コロナという特殊な状況下で、有効求人倍率は低いまま。当事者団体である「ひきこもりUX会議」の調査では、「この1年で失業して、ひきこもりになった」と自認する人は、全体の25%を占めるそうです。

岩井 社会から否定された、と受け取ってしまうんだろうなあ。私はこれまで、ひきこもりは不登校などがきっかけ、つまり10代から続くものだ、と思ってきたんですが、必ずしもそうではない、と。

池上 誰でも、何歳からでもそうなる可能性があります。

畠中 私はファイナンシャルプランナーの立場から、親の死後、働けない子どもが生きていくにはどうすればいいか、いわゆる「サバイバルプラン」を提案しています。相談にこられるのは主に親御さんですが、お子さんがある時期までは順調に社会生活を営んでいたケースは少なくありませんよ。

岩井 子どもの幼少期から不登校などに対応してきていれば、親も多少悩みに慣れているだろうけど、50代や60代でいきなり向き合うことになったらキツいでしょう。

畠中 たとえば、2人いる息子さんがいずれも一流大学を卒業し、大手企業に勤務していたのに、40代になって家を出られなくなり、退職した、という方がいました。

岩井 2人ともひきこもりに? なにがあったんだろう。

畠中 自慢の息子たちだっただけに、受け入れられないご両親はパニック状態。近所の人とも顔を合わせられない、と明け方4時くらいにゴミ出ししているそうです。