責めれば責めるほど、心は離れていく

畠中 岩井さんの息子さんは「働けない」わけではなく、「ときどき働いている」のですから、将来的な問題は大きくないように思います。ただ「最終的に自活が難しい」となったとき、私がアドバイスするなら岩井さんと元夫の死後のこと。親は家屋とかある程度の現金を相続させたいと考えるもので、そうするときょうだいが関わる問題になりますよね。相談者にも相続時に揉めないよう、「ほかの子どもたちを含めた話し合いをしてください」とお願いしています。

池上 特にひきこもり状態のきょうだいを持った方は、親の死後は自分が面倒をみなければいけないのではないかと懸念したり、扶養は当然という周囲のプレッシャーに追い詰められたりしています。ただ法的な話で言えば、きょうだいに扶養義務はありません。そのことも、心に留めておいていただければ、と思っています。

畠中 私はご相談に応じて、「就労は無理なのでいずれは生活保護を受けるプラン」とか「就労支援を受けながら週に3日くらい働くプラン」など、複数のプランを提示するよう心がけています。ただプランを立てるにも、親が認知症になってしまってからでは遅い。まだ元気な70代のうちに、準備をはじめることをお勧めします。要は「7040」で食い止める方法を考える、ということですね。

岩井 こんなお気楽な生き方の私でも、息子に「将来はどうするんだ」と言ってしまうわけで、「8050問題」の背景には、親世代と子世代との考え方のギャップが大きいんでしょうね。

池上 戦中・戦後を生き抜いた親世代は、いい学校を出て、いい会社に就職して、安定的な収入を得るのが幸せな生き方だと思っている。特に高度成長期、そういうライフモデルを築くのは可能だった。でもバブル崩壊後の就職氷河期を経験した子世代には、非正規雇用やアルバイトで生きていかざるをえなかった人が大勢いるわけです。

岩井 就職できたと思ったらブラック企業だった、とか。親側の成功体験を押しつけられても、「じゃあこの時代を生きてみれば?」という気持ちになりますよ。

池上 親は「自分は努力してこの人生を手に入れた」と思っているから、「なんでできないんだ。努力が足りないんじゃないか」と責めてしまう。さんざん頑張ってきた結果、社会に傷つき、人が怖くなって安心安全な自宅にこもっているのに、家族からも責められたら、ひきこもりは長期化します。

岩井 長期化の原因は、そこにあったのか。

池上 家族の反応に言葉でうまく表現できず、暴力に向かってしまう人も。責めれば責めるほど、心が離れていくと考えていただいていいと思います。