子どもへの理解は親の介護に影響する

畠中 「8050問題」は、親を亡くしたあとに子どもがどう生きていくか、という視点から語られることが多いですが、その前に「親の介護」という課題が待ち受けているんですよね。ケアマネジャーさんやヘルパーさんが自宅に入ってこられないよう、お子さんがドアチェーンをかけてしまい、介護放置状態になるケースも見てきました。いままで守ってくれていた親が、弱ってしまう姿を受け入れられない思いもあるようです。

池上 私が見てきた風景はむしろ逆で、積極的に親の介護をする人が多かった。もともと真面目だったり優しすぎたりするからひきこもっているので、親に迷惑をかけているという思いは強いんですよ。

岩井 親がその優しい気持ちに気づいてあげられればいいんだけど。

池上 おっしゃるとおりで、一番問題なのは、親が子どもの現状を否定し続けてきた場合。そうすると、親子の間に会話も成立しないので、畠中さんが指摘されていた介護放置状態になりかねません。

岩井 でもなんでチェーンをかけるんですかね。ケアマネさんがいるほうが、自分はラクになるのに。

池上 ひきこもらざるをえなかった思いが親の理解を得られずにきた場合、世の中に味方はゼロ。完全に孤立しているわけです。親も敵、まわりも敵だから、辛うじて生き延びてきた生存領域を脅かされ、自分が外に出される脅威を感じて怖くなる。それで鍵をかけたり、大声を出したり、暴れてしまったりするわけです。

岩井 自分に介護が必要になったときのことも考えなくちゃいけない。この長生き時代、親はいったいどれくらいの額を自活できない子どもに残せば安心なんですかね。

畠中 不安のあまり、お金を使わずにきた人も少なくありません。ごく普通のサラリーマン家庭のご夫婦で2億円以上貯めている方も。

池上・岩井 すごい!

畠中 家族がひきこもっていると、思うように旅行や食事を楽しめず、お金が貯まってしまうようです。ただ、現金をそこまで貯めるなら、相続対策をきちんとしないと。

岩井 私が子どもの立場だったら、親がすべてを我慢しているのは、ちょっとキツいかもしれない。

池上 そう思います。ひとりにしてほしい、放っておいてほしいのに、すべてのベクトルが自分に向かっているわけですから。

畠中 私はコロナが落ち着いたら、親御さんを休ませるための海外ツアーを計画するつもりなんです。

池上 従来のひきこもり支援は子どもに向けたものでしたが、すでに家族に向けたものに変わりつつあります。日常を楽しめるようになると、家族の表情が変わる。その変化が、ひきこもる子にもいい転機をもたらすのです。

<後編へつづく