体力、経済力、仲間に恵まれた老後が理想だが、歳を重ねればそうすべてがうまくいくわけではない。健康状態や家計、また家族とのかかわりによって、どのような困難があるのだろうか(取材・文=樋田敦子)

くよくよしたって、なるようにしかならない

50年以上前に造成された千葉県のニュータウン。高齢化率が20%を超える町のマンションの一室に、吉田恵美子さん(79歳、仮名=以下同)は、週2回やってくるヘルパーの入浴介助を受けながら一人で暮らしている。30歳で故郷の山口県から仕事を求めて上京し、49年間この住まいだ。

身寄りは2年に1度アメリカから帰国する2歳下の妹のみ。かつては内縁の夫もいたが、今はいない。

「近所づきあいもなくなって、寂しいと言えば寂しいけれど、私の人生、こんなものかと思います。79歳になっても意外に元気で、なんとかやっています」

そう話すが、やはり年ごとに心身の衰えは忍び寄ってくる。初めて不調に気づいたのは60歳のとき。商品販売の仕事をしていたが、今まですっと出ていた言葉が出ない。客に何かを聞かれても答えられない。単なる物忘れとも思えず、仕事を続ける自信がなくなり、勤めを辞めた。それからは、月15万円ほどの年金で生活している。

後に認知症と診断されたが、ここ数年で症状は少しずつ悪化し、要介護2になった。夜になると幻覚が見えることもあるという。

さらに困ったのは、数年前、毎月支給の年金をすべて使い果たし、5万5000円の家賃を滞納する事態に陥ったことだ。それ以来、成年後見人が印鑑と預金通帳を預かって金銭管理をしてくれている。自由になるのは月5万円。それを2週間に1度、2万5000円ずつ受け取る。吉田さんが財布を見せてくれた。中には折りたたまれた1000円札が1枚入っていた。

「1日1000円で生活しています。以前は買い物が楽しみだったのですが、ひざが悪くなって右足にしびれが走るので、徒歩15分ほどかかる大型スーパーには行けなくなりました。すぐ近くのコンビニで、おにぎり1個とおかずや味噌汁用の食材を買って我慢しています」

「人さまに迷惑をかけないように」できる範囲で小魚や昆布を使って工夫しながら自炊している。もちろん掃除や洗濯もすべて自分の手で行う。よくカラオケに行って歌っていたが、今は一緒に行く人もいないので楽しみはもっぱらテレビ観賞。

「将来への不安? 病気になって寝たきりになったらどうしようとか、あまり考えないことにしています。くよくよしたって、なるようにしかならないから」

 

なんのために生きているのか……

厚生労働省が発表した「国民生活基礎調査の概況」(2016年版)によれば、65歳以上の高齢女性単身家庭は、429万2000世帯に及ぶ。単身の世帯は、同居の家族がいないので、いざというときには経済的に追いこまれ、介護が必要になった際も困難がある。

北海道札幌市に住む小林みか子さん(88歳)は、高齢に加え、交通事故に遭った後遺症もあり、歩行器でやっと歩いている状態だ。料理は大好きだが、買い物はもっぱらヘルパーに任せているという。現在、要介護2。耳が遠くなり、電話での会話を聞き取るのが困難だ。