二人は実によく動く。實さんは庭で野菜や花を栽培し、月恵さんは炊事に洗濯。この日の朝食は、ご飯に納豆、具だくさんの味噌汁ほか、つくだ煮やらっきょうなど手作りの常備菜も含め食卓に8品が並んだ。朝はしっかり食べ、昼夜は軽めが東家流。夜、實さんは定量の焼酎1合半を飲むが、月恵さんから「あら、飲みすぎじゃない?」と指摘されることも。

時にはガスをつけっ放しにして鍋を焦がしたり、水道を閉め忘れたりすることもあるが、互いに注意しながら暮らす。

「年寄りになると散歩といってもそう長くは歩けないので、家にいて動くことを心がけています。食器洗いは私がやるから、お母さんは洗濯ね、という具合。できることは自分たちでします」(實さん)

結婚68年。67歳になる息子は、二人を心配して、月に1回は実家に戻ってくる。息子は「いつでも頼っていいんだよ」と言ってくれるが、二人は息子に迷惑をかけることのないよう、今後も公的な介護サービスで乗り切るつもりだ。

戦中、中国に出征していた経験がある實さんは凜として、「今後に何も不安はない」と話す。夫婦互いに「怒らない、責めない、怠けない」をモットーに淡々と暮らしている。

一方の月恵さんには不安も──。

「今はいいですが、この先一人でトイレに行けなくなったらどうしよう、オムツになったらどうしようと心配です。それを話すと、ヘルパーさんが『大丈夫、娘だと思って。私がケアをします』と言ってくださいます。それでも申し訳なくて──」

ケアマネジャーを含めて、どちらかが施設に入所しなければならなくなったときにどうするか、と話し合うこともある。それでも「できる限り、自分たちは自分らしく生きていたい」と夫婦は言う。

生きていれば、つらいことも多い。

「歳を取ればいろいろあります。でもそれが人生です」

先達の言葉は重い。