2019年1月29日、肺炎のために亡くなった橋本治さん(撮影:本社写真部)  
さまざまなジャンルで執筆活動をした作家の橋本治さんが、2019年1月29日、肺炎のために亡くなりました。 一周忌を迎え、本日1月30日には都内で「橋本治さんを偲ぶ会」が開かれます。いくつもの病気も、億単位の借金も抗わずに受け入れる。橋本さんの言葉にはブレない姿勢が垣間見えます。先行きの不透明な時代において、その言葉は読む者の心に突き刺さります。亡くなる1年半前、弊誌にご登場いただいた際の記事を、再掲します(構成=山田真理、撮影=本社写真部)

心配できるのも贅沢のうち

「人生100年」と聞いて、無条件に「それは素晴らしい」って喜べる人が世の中にどれだけいるんでしょう(笑)。長生きが珍しかった時代なら、紅白饅頭でも配ってお祝いしたかもしれないけれど。現代の私たちの気分としては、「ついうっかり、100歳まで長生きしちゃったらどうしよう」という心配のほうが先に立つんじゃないかな。

心配の第一は、そりゃあやっぱりお金ですよね。私を含め、いまの中高年は日本の経済が右肩上がりだった環境で生きてきました。働けば給料が上がり、資産が増えることが当たり前。それが幸福だと信じてきた。ところが老後に入ると、自分の資産がどんどん目減りしていく。

増えることに慣れていても、自分のお金が減っていくことには慣れていない人が、続々と老後に向かっているわけです。どんなにシミュレーションを重ねて、年金と貯金で生活できると確かめても、通帳の残高が少なくなれば不安になる。それが「うっかり長生きしたら」とオタオタしちゃう原因でしょう。

でも私から言わせると、そういう心配って、余裕があるからできること。いわば、贅沢な心配なんですよ。(笑)

私は来年(2018年)3月に70歳になる。そして、7月にはついに、30年間続いた借金の返済から解放されます。バブル崩壊の少し前、40歳のときに1億8000万円で買わされたマンションのローンを、ある時期まで月々150万円、最近でも60万円、ずーっと払い続けてきた。結局、利息も含めて5億円以上、銀行に払ったんじゃないかなあ。

70歳になって、月々の支出が60万円減るのはありがたいですよ。そのぶん、余計に稼がなくて済むんだもん。でも、悠々自適の隠居状態になれるわけじゃなくて、今後もあくせく原稿は書かなきゃいけない。

だって、30年間自転車操業の毎日で、貯金なんて一銭もないから。年金も国民年金は加入期間が短いし、税金対策で事務所を法人登録していた間、微々たる給料をもらったぶんの厚生年金が上乗せされるだけだから、月5万円しかないの。笑っちゃうでしょ。

保険の類いは、ローンの担保にマンションと同額の生命保険に入らされたくらい。でも、月々20万円以上の掛け金が馬鹿馬鹿しくなって、途中で解約しちゃいました。掛け金の7割程度しか戻らなくて、「ああ、保険金殺人するなら、加入してすぐに殺さないとペイしないなー」と思ったよ。(笑)