これまで娘と向き合う時間がほとんどなかった分、一緒にいる時間が増えると、生活態度のあれこれが目に付くようになった。でも、そこで小言を言ったらケンカになるだけ。ぐっと我慢しつづけたある日の夕飯時のことだった。
由美さんが最後まで箸をつけずに残していた刺身を、もう食べないのだと思った吉川さんが飼い猫に与えると、「『子どもより猫が大事なの』と、大変な剣幕で怒り出したのです。その後も、『ママはずっと私より仕事、私より教え子だった。いつも私は後回し』と泣き出してしまって」。
小さい頃に甘えられなかった分、子ども返りをしているのかもしれないと語る吉川さん。ただその時、泣きながら娘が放った、「ママと私は違うの。私はママのように生きられない。私に何も期待しないで」という言葉が胸に刺さっていた。
「将来のため、常に努力してきた私の人生は、娘の目にどう映っているのでしょう」
どこで自分たちの生き方はすれ違ってしまったのか。今も悩みは尽きないそうだ。
「ありがとう」と言われたことがない
「昨年のクリスマスイブ以来、娘と2人だけで会うことはなくなりました。『遊びに行っていい?』と電話してきては訪ねてくる孫を、娘はわが家の玄関先まで送り届けるだけ。私の顔を見ようともしないんですよ」
と、ため息をつくのは、兵庫県在住の梅木美枝さん(65歳)。現在は、定年退職した70代の夫と2人暮らし。長男一家は東京に住んでいるが、短大を出て地元で就職した娘の春香さん(38歳)は、車で30分ほどの場所に暮らしている。
娘とは昔から仲が良く、春香さんが25歳で結婚してからも、神戸で一緒にショッピングやカフェ巡りを楽しんできた梅木さん。「娘の夫の仕事が不規則なこと、休日もゲーム三昧で家事や育児を手伝ってくれないといった愚痴も、よく聞いてやったものです」と言う。
同じ敷地内に住む義理の両親は共働きで、子どもたち夫婦の生活には不干渉。そのため、2人の孫の出産時は春香さんを里帰りさせ、すべての面倒を梅木さんがみたそうだ。
「私は実家が遠方だったので、頼る人は誰もいませんでした。38度の熱でフラフラでも起きて、家事や育児をしていた。当時の自分を思い出すと、『娘には同じ苦労はさせたくない』と思ったんです」
その後も梅木さんは、孫育てから春香さんの愚痴聞きまで、サポートに奮闘する。娘から「夫が留守で寂しい」と連絡があれば3日に1度は実家に呼び、孫の習い事の送迎に車を出すなど惜しみなく協力してきた。
「娘たちには、幸せになってほしい。それだけを願って、13年間全力で支えてきたつもりです」
そこには、金銭的な援助も含まれていた。娘夫婦は結婚当初から夫が家計を握り、「娘から『夫は生活費を月6万円しか渡してくれない』と聞いたんです。幼子を2人も抱えて、それは少なすぎ。心配で心配で……」。
思いあまった梅木さんは、娘の夫の職場へ連絡。月々の給与と賞与の額を聞き出した。その金額をもとに、生活費の増額を夫に訴えるよう春香さんに促したそうだ。しかし夫は「パートにでも出ればいい」と応じない。