そんな苦労をみかね、娘が自宅に来るたび食料品を持たせ、外出ついでに洋服を買い与えた。孫の習い事に必要と言われれば用具や合宿費まで用立ててきたのだ。その金額は月に5万円から、多い時には10万円に及ぶことも。

「わが家は住宅ローンも払い終わっているし、年金も貯えもあるので、援助をするのは構わない。そう思って一所懸命やってきたんです」

ところが、事件は昨年のクリスマスイブに起きる。「ケンカで夫に殴られた」と訴え、10日前から孫たちを連れて戻ってきていた春香さん。離婚を口にし、イライラや不安を募らせる娘を、梅木さんも扱いかねていた。

「離婚するなら、実家に戻ってくればいい。孫の面倒は私がみるから、『ちゃんとした仕事を見つけて働けば』と忠告もしたんですよ」

そしてイブの夜、ピザやチキンなど心尽くしの品々が並ぶ食卓。梅木さんは、生クリームが苦手な孫のため、クリスマスの飾り付けをしたカップアイスも人数分、買っておいた。

「それを見た娘が、『なぜデコレーションケーキじゃないの! ホールケーキのないクリスマスなんて信じられない』と怒鳴り始めたのです」

それを聞いた時、梅木さんの中で何かがぷつりと切れた。

「これまでいろいろと娘のためにやってきたというのに、この子はたかがケーキで怒鳴るのか、とがっくり。65歳で、膝も腰も痛いと言う母親を労る気持ちは少しもない。もし離婚して戻ってきたら、今まで通り私に家事も孫の世話も任せて文句ばかり言うのだろうって」

これまでもそうだった。何をしてあげても、娘が私に感謝の言葉を言ったことはない。そう思った梅木さんは、「あなたとは一緒に暮らせない。離婚しても絶対に戻ってこないで!」と大声で叫んだという。

「それ以来、夫や孫を介して顔は合わせているけれど、娘とはなんとなく距離を感じているんです。きっと、大爆発した私を怖がっているんだと思います。でも、『今まではごめんなさい。お母さんの言うことを聞いて、しっかりします』と頭を下げてくれなければ、気が済みません」

春香さんからの感謝とお詫びの言葉を、梅木さんはやきもきしながら待っているそうだ。

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結婚や就職で子どもが自立をすれば、子離れするのが一般的。しかし今回話を聞いた3人の母親たちはいずれも、自立した子どもに口や手を出さずにいられないようだ。それを重荷に感じる娘は多いが、母親の言動の根底には「幸せを願う」気持ちがあるのだろう。

夢の中でしかケンカできない私には、3組の葛藤が少しうらやましい気もしてしまうのだ。