結婚や就職で子どもが自立をすれば、子離れするのが一般的ーーでも、それができない親もいる。娘の幸せを願っているだけなのに、うまく付き合えない。母と娘のすれ違いには、それぞれの事情があるようでーー(取材・文=山田真理)

衝突を繰り返す母と娘

私は間もなく母の一周忌を迎えるのだが、そのせいか最近ちょくちょく昔の夢を見る。その中で、母と私は生前と同じように口ゲンカをしており、最後はだいたい「何でわかってくれないの!」と私が叫んで目が覚める。はなはだ疲れる夢だ。

しかし今になってつくづく思う。なぜ、あれほど私たちは衝突を繰り返していたのだろう、と。私が母に苛立つと同時に、母も「言いたいことが伝わらない」とじれていたのだろうか。

『婦人公論』でも、娘から母親に対する不満や悩みが取り上げられることは多い。では母親は娘に対して、どんな思いを抱えているか。成人した娘と「最近なぜかうまくいかない」「相手の気持ちがつかめない」と感じている3人の母親に、胸の内を聞いてみた。

 

若くして嫁いだ娘がどんどん遠くなり

「この前、娘が住む姫路の家へ遊びに行ったとき、『ばぁばの部屋』がまた少し荷物に占領されていて。それが気になっているんですよね」

と話すのは、都内に住む会社員の若月由美子さん(仮名=以下同、60歳)だ。

若月さんは15年前、当時大学生の息子と高校生だった娘の愛さん(現在32歳)を連れて離婚。同じ頃に実母の介護などが重なり、いろいろと心労の絶えない若月さんを「『お母さんが一所懸命なのは、みんなわかってるよ』と励ましてくれる、優しくて頼りになる娘だった」と言う。

ところが、愛さんは19歳になったとき、「専門学校を卒業したら姫路に行こうと思う」と言い出した。

「夏休みに、同級生の恋人の故郷へ、友だちと一緒に遊びに行ったんです。そこで彼のご家族や友だちとも仲良くなって、『自分もここで暮らしたい』と感じたみたいで」

大人になった娘といろいろ話をしたり、旅行に出かけたりするのを楽しみにしていた若月さんにとって、突然の別居宣言は当然寂しいものだった。しかし、「娘の選んだ道だから」と快く送り出したそう。

「結婚ではなくとりあえず同棲からと聞いていたので、『ダメだと思ったら帰っていらっしゃい』と、多少の期待を込めて言い含めておいたんですけど(笑)」

若月さんの期待とは裏腹に、愛さんはすぐに姫路での生活に溶け込み、1年後には正式に結婚。妊娠をきっかけに同居を始めた義理の両親からも、実の娘のように可愛がられた。

「義理のお母さんのことを『よっちゃん』と呼んでいて。『よっちゃんって、すごくおもしろいの』とか『今日、よっちゃんと買い物に行った』とか、楽しげなメールがくるばかりで、私なんて放ったらかし」

若い夫婦で経済的に余裕がなかったのか、子どもが生まれても娘は実家に戻ってこない。近くにいたら、私が「よっちゃん」の代わりに、サポートしてあげられるのに……。

「ところが、2人目の子どもが生まれるとき、『一生のお願い。こんなワガママは二度と言わないから、手伝いに来て!』と連絡がきたんです。ちょうど義父母の家を出て独立した頃で、上の子の面倒をみながらの出産は大変だったのでしょう」