子どもの頃、治療から逃げた自分に後悔

当時の日本ではまだ治験も兼ねた施術のため、MRIや事前の検査をいくつも受ける必要があると説明を受けた。顎骨に金属のネジを埋め込み、上から人工歯を装着する方法はいまとほとんど変わらない。指導のために来日していたスウェーデンの大学教授の診察も受けることができた。

しかし、治療代はなんと600万円。医療費控除が受けられるということだったが、税務署は「インプラント治療など聞いたことがない」と、とりあってくれない。最終的に「100万円分までは認める」ということになった。

入れ歯から解放され、「歯を大切にしよう」と歯磨きに精進する日々。でも私の「歯に悩まされる人生」はこれで終わりではなかった。

それから30年ほど経った頃、加齢で歯茎が弱ってきたためか、歯茎と人工歯の間に溝ができてしまったのだ。新しい歯を作るべく、再び歯科医院通いを決意。テレビCMでお馴染みのクリニックを選ぶも、ドクターのいい加減さに呆れることになった。装着する人工歯がネジに合わないと、すぐに歯科技工士を呼びつけて「ちょっとやっといて。僕は用事があるから」と言って、逃げてしまうのだ。

歯科技工士は人工歯を作って嵌め込む作業にばかり必死で、仮歯の時に「歯と頬の内側の隙間が狭く感じるので、噛み合わせを見てください」という私の要望を無視し、仕上げてしまった。

ドクターに訴えても、「大丈夫です。ちゃんとできています」と言うばかり。頬の内側に歯の跡がつくのは常だし、傷になることだってあるのに、文句が言えない私。ここでの料金は1本50万円、4本分で200万円。診察費も毎回1万円を超えているのに……。

なぜ、こんなにも歯に悩まされなければならないのか……。思い返せば、子どもの頃に虫歯の治療を途中で投げ出したことが発端だったように思う。近所の歯医者さんが「治療に来なさい」と何度も言ってくれていたのに。昔の自分を恨むばかりだ。これ以上何も起こらないでほしいと、切に願う。

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