インプラントに望みを託して

抜歯から数年が経ち、好きな人ができたが、入れ歯である自分に引け目を感じて、どうしても積極的に動けなかった。好きな人に恥をさらして嫌われるくらいなら、どう思われてもいい人と結婚したほうが惨めな思いをしなくて済む。そう考え、私をお手伝いとしてしか考えていない、好きでもない男性と夫婦になることにした。

しかし、気を使わなくていいとはいえ、入れ歯のことはバレたくない。歯を磨く時や、洗浄液に浸けた入れ歯の置き場所には苦労した。後ろ向きな気持ちで始めた結婚生活は、私を自暴自棄にさせたが、子どもを授かったことは唯一の嬉しい出来事だった。しかし、保育園に通う息子のママ友に言われた一言で現実に引き戻された。

「A君は、食事の仕方がママとそっくりね。前の歯で噛んでいるわ」

無意識に入れ歯を避けて前歯で噛む食べ方を、なんとわが子が真似てしまっていたのだ。

何とかしなければと焦る私の目に飛び込んできたのは、「アメリカや北欧では、第三の歯と言われるインプラント治療で快適な生活を送る人たちが増えている」という雑誌の記事だ。「これでもう歯に悩まされることはあるまい」と天にも昇るような気持ちで、インプラント治療が受けられる歯科医院を見つけ、受診することにした。