(イラスト:はしもとゆか)
厚生労働省が2016年に実施した歯科疾患自体調査によると、80歳になっても自分の歯が20本以上ある「8020」を達成した人は51.2%と、前回2011年に実施した40.2%から増加していることが分かった。歯を大切にする人が増えている中、歯並びが悪い、虫歯が多い、黄ばんでいる……など人から見ればささいなことでも、気になって気になって仕方がなくなる場合もある。起死回生をかけて治療したが、思うような結果を得られずむしろ悪化するなんてことも。アキキヌコさん(仮名・宮城県・パート・77歳)は、大学生の時に奥歯の抜歯をしてから、何十年にわたり「歯」について悩まされることになったそうで――。

抜歯したがる本当の理由は

「えっ? 抜くんですか?」

「右下の奥から3番目の歯は重度の虫歯ですから、抜きましょう」と、どこか嬉しそうに告げられ、思わず口をついて出た言葉だ。

「治療法として、それがベターですから」

仕方がない。虫歯を放置していた私が悪いのだから。そう自分を納得させつつ説明を聞き終えると、麻酔を何度も打たれ、あっという間に歯が引っこ抜かれた。まさかこれが悪夢のような人生のはじまりだったとは……。

1週間後、再診のために歯科医院を訪れた私は、思わず目を疑った。器械台の上に、歯を抜く器具が並べてあったのだ。

「また抜くの? どの歯を?」と慌てて尋ねると、先日抜いた歯の1つ奥だという。でも、この歯の虫歯の進行は中等度だと言っていたはず。理由を聞きたかったが、「聞いてくれるな」という無言の圧を感じて聞けなかった。この状況でも、押しに弱い自分が嫌になる。