50歳デビューも悪くない
「さやかさんは、アクセサリーあまりつけないのね?」
「いえ、なんていいますか、あまり持ってないんですよね。ピアスとか、いいですよね、あけようかな。いや、今更!」
「さやかさん」
「はい」
「今更ってことは幾つになってもないわよ」
「そうですか!」
「そうよ、幾つからだって、始められる」
「なんでも」
「そうね、なんでも」
そうか。高校生デビューという言葉があった。大学生デビューという言葉があった。突然お洒落に目覚める!とか、ピアスあける!とか、男と遊ぶ!とか。わたしは、そういった意味では、まだデビューは、していない。
そうだ。50歳デビューも悪くない。
タキさんは、数年前に突然社交ダンスを始めたようで、「痩せたのよ〜」とウキウキしながら話してくれた。その様子は少女のようで可愛い。背筋はピンと姿勢よく、毎日ヒールを履くという。靴は購入すると、裏にゴムをはり、靴底がすり減らないようにしているそうだ。靴底って、自分は見えないが、人からはよく見える。タキさんに見せていただいた何足かの靴は、ピカピカで手入れが行き届いていた。
タキさんのお宅の大きな窓からは、雪が積もった富士山がしっかりと見えて夕暮れは美しく、こだわりの甘めの香りの良いコーヒーをそこで頂きながら、大切にされているアクセサリーに囲まれて、息子さんが子どもの頃作ったという花器の話を聞きながら、
わたしは、また会いたいと思う人と出会えたことを、幸せに思った。