しかし隅田さんの指示で、施設に近づくことは許されなかった。「この場所が公になるのを避けたいので、静観してほしい。猫の世話は、山田の家族と、施設で雇われていた女性が行う」と。施設の猫は50匹以上いる。ちゃんと世話ができるのだろうか。気をもみながら過ごしていると、被害者の一人から連絡が入った。
「ほかの被害者の方と会合を開くのでいらっしゃいませんか」。

私は二つ返事で出かけた。集まった3人の被害者は、隅田さんに疑念を抱いているという。山田と知り合って間もない彼女が、なぜ施設の行く末を決めるのか。猫のために多額の援助をしてきた自分たちにも意見を言う権利があるのではないか、と。たしかにそのとおりだ。彼女の目的を探るためにも、私たちは協力し合い、動向をうかがうことにした。

 

猫を移動する当日に「所有権は渡さない」

会合から1週間。山田が立ち上げた法人を、第三者が解散したり引き継いだりするのは難しいと判明した。それなのに、なぜか隅田さんは猫の所有権が自分に移ったと主張し、猫を一時的に動管へ連れていくと言う。

思わず「話が違う」と言うと、「他団体や譲渡センターにスムーズにつなげるためだ」と一蹴。私には動管や他団体への引き渡しに関する知識がなかったため、彼女に反論することができず、なんとも情けない気持ちになった。

被害者同士の会合以来連絡を取り合っている武本さんという女性にその旨を伝えたら、「皆で動管や譲渡センターを見学してみよう」と提案してくれた。実際に現地を訪れると、想像以上に狭い。動管の担当者も、「一度に50匹は無理ですよ」と言う。内心ホッとした。キャパが足りないのであれば、動管に送られることはないとわかったからだ。

とはいえ、隅田さんへの不信感は増すばかり。「これは私たちが動くしかない」と、すぐに山田の家族との話し合いの場を設けた。譲渡先を探すために猫の所有権を私たちに渡してほしいと伝えると、あっさり同意してくれた。ただし、山田に代わってビルの家賃を負担し続けられないので、6月末までに猫を移動させてほしいという。残り3ヵ月半。急を要する事態だ。