(イラスト:横尾智子)
2020年、新型コロナの流行で緊急事態宣言が出され、リモートワークや外出自粛など、家にいる時間を大切にする傾向が。それに伴いペットを飼い始める人が増えたという。経済産業省が発表している商業動態統計の「ペット・ペット用品販売額」は、2020年第II四半期に前年同期比8.2%増、第IV四半期に同13.8%増と、2020年以降8期連続の増加に。一方で、飼い切れない人が出たり、多頭崩壊が起きたりなど問題も起こっている。引き取り手のない猫たちを救うために名乗りを上げたのは、とある詐欺事件の被害者たち。力を合わせ、行く手を阻む困難に立ち向かう――。青木悦子さん(仮名・埼玉県・パート・63歳)たちの前に現れたのは…。

施設の運営者にお金を騙し取られて

2月下旬のある日、夜9時過ぎにメールが届いた。「山田花子さんが警察に逮捕されましたよ。ご存じないですか」。山田花子とは、私がボランティアで携わっていた保護猫施設の運営者だ。不安が一気に押し寄せる。急いで施設に駆けつけると、そこには5、6人の見知らぬ人々。向かいに座っている女性が口火を切った。

「猫の保護活動をしているNPO法人の隅田と申します。3日前、山田さんが詐欺容疑で逮捕されました。ここにいるのは被害にあわれた方たちです」。ある人は20万円、ある人は170万円も騙し取られたそうだ。

逮捕を報じた新聞記事によると、山田は「保護猫に関する事業を立ち上げたい。融資を受けるにあたり、預金残高証明書を提出する必要があるからお金を貸してほしい」と言って一人の女性から500万円を騙し取り、それが事件発覚のきっかけになったという。

私が山田と出会ったのは4年前。彼女はビルを1棟借りて保護猫施設を運営しており、そこで開催された譲渡会に参加したのが最初だ。「自分も活動に協力したい」と通うようになったのだが、ある日彼女から、「20万円ほど都合してほしい」と相談された。胡散臭さを感じつつも、猫たちの餌代や医療費が足りないのかもしれない、と応じることに。

しかし彼女はいっこうにお金を返してくれない。冒頭の連絡を受けたのは、そんな彼女とのつき合いに疲れて疎遠になっていた頃だった。

この日初めて会った隅田さんは、山田とは1年前からのつき合いだそうだ。「施設の1階は障碍者支援施設、2、3階は保護猫施設として再開すれば、国の給付金が下りて猫たちが動物保護管理センター(以下、動管)に送られることはありません。そのために、まずは現在の法人を解散させましょう」と言う。猫が助かるならと、私やその場にいた数名が賛同した。