しかし、一歩前進すればまた壁に突き当たる。最初の譲渡は時間がないなかで行ったこともあり、その方法に異を唱えた仲間の1人が離脱。また、山田の家族が施設の備品やキャットフードを早々に処分したため、足りない分は自腹で買い足さなければならなかった。
そんななか、新たに2人の女性が餌やりの手伝いに名乗りを上げてくれた。山田の詐欺被害にあった80歳の女性と、ネットで私たちの現状を知って連絡をくれた女性だ。これで譲渡に時間を割ける。平均年齢65歳の女5人、ここからギアを上げて大奮闘した。
里親のトライアルのため、猫を連れて西へ東へ。本人の了承のもと、譲渡の様子もできるだけSNSで発信した。すると、武本さんの知人から、「ある保護施設が何匹か受け入れてもいいと言っている」と連絡が。さらに別の施設からも声がかかり、一気に13匹の猫の移動先が決まった。とはいえ、まだ30匹以上の猫が残っている。
このやり方に限界を感じた私は、手当たり次第、マスコミ宛にメールを送ることに。すると4月中旬、新聞社から取材の申し込みがあり、施設に来た記者に事の顚末と残り時間が少ない現状を伝えることができた。紙面には、リスク覚悟で武本さんの電話番号を記載。掲載日には、里親を希望する方たちからの問い合わせで彼女の携帯電話は鳴り止まなかった。
しかし、ここでまた大きな問題が発生。施設内で取材を受けたことに山田の家族が激怒し、「5月25日時点で残っている猫は処分する」と言い放ったのだ。おそらく犯罪者の家族だと知られることを恐れたのだろう。期限は1ヵ月も短くなるが、猫を人質にとられてしまった以上、条件をのむしかない。私たちは粛々とスピーディーに譲渡を進めた。
悪戦苦闘の末、5月25日の期限ギリギリに全部の猫を譲渡することに成功した。この3ヵ月間、多くの困難に見舞われたが、それ以上の善意や励ましをいただいたと思う。遠方から2度も足を運んで里親になってくださった方もいれば、車にキャットフードを積んで届けてくださった方もいる。猫好き冥利に尽きる思いだ。
私たちは5人揃ってピースサインで写真を撮り、笑顔で任務を完了した。